「老年社会科学」 Vol.17-2

   

論文名


老年期における死に対する態度

著者名

河合千恵子,下仲順子,中里克治

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 17 ( 2 ) : 107-116, 1996
抄録
本研究は,わが国の高齢者が死をどのように認識しているか,またさまざまな要因が死への態度とどのような関連をもっているかについて明らかにすることを目的として,東京都在住の60歳以上の男女315人に死の態度に関する調査を行った.その結果,諸外国と比べてわが国の高齢者は死の不安や恐怖が高いことが示された.死そのものより,死ぬ際の苦しみについての恐怖が大きいことが示唆された.また,死後の世界を肯定的に評価すること(積極的受容)よりも,現世からの回避により死を受け入れる傾向が強く認められた.死の不安や恐怖と関連する要因は,年齢,経済状態,配偶者の有無,子ども数であった.一方,死の受容に関連する要因は,年齢,学歴,健康状態,経済状態,信仰のほかに,配偶者,孫などの家族やペットの有無,また死別体験等の死とのかかわり方であった.これらの要因が死の不安や恐怖を緩和し,死の受容へと方向づけることが示唆された.

 

論文名


特別養護老人ホームにおける健康管理に関する多角的検討

著者名

松浦尊麿

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 17 ( 2 ) : 117-128, 1996
抄録
高齢者ケア施設における健康管理のあり方を明らかにする目的で,特別養護老人ホーム入所者を対象とした調査を行い,次のような結果を得た.すなわち,日常生活動作,精神機能,栄養状態,脱水傾向などは相互関連性がみられた.また,感情機能レベルが低い者や自発性が低下していく者の入所後生存率が有意に低下していく傾向がみられた.さらに,脳梗塞,気管支肺炎,心筋梗塞などの主要死因で入所中死亡した者の発症前の日常生活変化をみても,リハビリ意欲の低下,臥床傾向,抑うつ状態,見当識障害の進行,食事・水分摂取の減少,脱水傾向,尿路感染の頻発,嚥下障害の出現というほぼ共通した経過をたどることがうかがわれ,感情機能・意欲の保持および日常生活の変化の早期発見による早期対応が,ケア施設における健康管理の重要なポイントであることが明らかとなった.

 

論文名


高齢者の外来受療行動に関する研究;レセプトからみた外来受療の継続性

著者名

工藤禎子,三国久美,深山智代,芳賀博

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 17 ( 2 ) : 129-137, 1996
抄録
地域に暮らす高齢者の外来受療の季節差と受療の継続性を明らかにすることを目的に,広域積雪地帯の一自治体に居住する70歳以上の者の1年間のレセプトを用いて,12か月の外来受療を追跡した.年間を通じて地域に在住し外来受療があった者は841人であり,これを対象として分析した結果,以下のことが明らかとなった.
(1)1月から12月までの月別外来受療者は,841人の約80%であり,月差はみられない.また積雪期と非積雪期ともに外来受療日数は平均3日/月であり,期による差はみられない.
(2)外来受療者の約60%が毎月継続的に受療しており,受療継続者には循環系疾患をもつ者が多い.
(3)受療先は町内の医療機関1か所の者が多い.複数の医療機関への受療を継続していた者は傷病系の数が多い.
(4)非継続的な受療者のなかにも循環系疾患をもつ者が含まれていた.

 

論文名


「エイジングへの意識」の世代間比較

著者名

堀薫夫

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 17 ( 2 ) : 138-147, 1996
抄録
本稿は,高齢者(419人,平均年齢66.4歳)と大学生(218人,平均年齢20.7歳)に対する質問紙調査の結果をもとに,両者のエイジングへの意識の比較検討を行うものである.ここでは,エイジングを操作的に「年をとること」と「老い」とに分けて,それぞれに対して同じ内容の項目に回答を求めている.
その結果,高齢者は,大学生よりも「老い」をポジティヴにとらえていること,逆に大学生は,「年をとること」を比較的ポジティヴにとらえていることが示された.また,高齢者が「年をとること」と「老い」とを同様の現象としてとらえる傾向が強いのに対し,大学生は,両者を別の現象としてとらえていることが示された.さらに高齢者データの社会的属性との関連をみると,男性・高学歴・元管理職に「老い」や高齢期へのネガティヴな意識が強いことが示された.
多重コレスポンデンス分析によって,「老い」への意識を構造化したところ,高齢者・大学生ともポジティヴな意識(ニュートラルな意識を含む)とネガティヴな意識との2グループに分類された.

 

論文名


老年期の心理的依存性が適応に及ぼす影響

著者名

中里克治,下仲順子,河合千恵子,佐藤眞一

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 17 ( 2 ) : 148-157, 1996
抄録
本研究の目的は,老人の心理的依存性と適応の関係を検討することである.対象は東京都豊島区の60歳以上の地域住民からのランダム・サンプル315人である.Interpersonal Dependency Inventory:Japanese short form(JIDI)により測定された心理的依存性のうち,情緒的依頼心では年齢差が,社会的自信の欠如では性差が認められた.家族との関係では,男性で配偶者がない場合,自律の主張が高かった.女性では既婚子と同居する場合に自律の主張が弱まることが認められた.適応との関係を家族関係を含めて検討した結果では,配偶者を失った男性では自律の主張の高い者は自尊感情が低く,抑うつ感情が高い.これに対して,女性では同居する子どもがなく自律の主張の高い者は抑うつ感情が高かった.男女ともに自律の主張の弱いほうが心の健康状態がよいように思われる.