「老年社会科学」 Vol.18-2

   

論文名


沖縄の在宅および施設百寿者の自立度と介助に関する研究

著者名

野原由美子,野崎宏幸,鈴木信

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 18 ( 2 ) : 107-112, 1997
抄録
日本の高齢化はきわめて急速で,なかでも沖縄県は後期高齢者の増加率が高い.超高齢者の自立度と介助状況を明らかにするため,沖縄百寿者79人(在宅44人,施設35人)を対象に問診による介助状況と7項目のADLから4点法(1点:全介助,2点:一部介助,3点:辛うじて自分でする,4点:自分で普通にする)で自立度を求めた.
在宅百寿者の同居者数は3.4人,独居百寿者は9%であり,介助者は娘と嫁を中心に91%が女性であった.施設に入ったおもな理由として,ホームでは在宅での介助困難が50%,介助者の病弱および死亡が42%であり,長期入院理由でも在宅での介助困難が82%を占めた.調査時点の自立度の平均±標準偏差は,在宅百寿者2.89±0.92,ホーム百寿者2.04±1.04,入院百寿者1.27±0.90であった.自立度の低下はホームでは6.6年で0.84,入院では3.4年で1.00低下し,入院百寿者のほうが自立度の低下は早い傾向にあった.

 

論文名


特別養護老人ホームにおける介護負担の改善に関する調査研究

著者名

徳田哲男,児玉桂子

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 18 ( 2 ) : 113-122, 1997
抄録
介護に習熟している特別養護老人ホームの寮母を対象に,入浴・排泄・移乗の各介護内容による身体負担の程度とその背景要因,介護機器の利用状況や使用性能から成る郵送アンケート調査を実施し,1,509件(回収率:50.76%)の回答を得た.慢性的な腰痛有訴者率は20%を上回っており,浴槽への出入り,おむつ交換,あるいは車いすとベッド間の移乗などにおいて,かなり負担を感じている割合が70%を超えた.身体負担の強さには脊椎の強い前屈姿勢に加えて,その出現頻度や所要時間,上肢加重などが背景要因として指摘された.一方,これらの動作に対する機器の利用率は,入浴介護の30%から排泄介護の10%程度にとどまったが,使用されている機器は全般的に良好な傾向を呈した.しかし,機器の構造や安全性,介護者の負担解消,効率性の確保などに関する指摘も多く,移動や上下調節あるいは操作の容易性,寸法や重量への配慮なども要求された.

 

論文名


高齢者の記憶能力の自己評価法の開発

著者名

長田由紀子,下仲順子,中里克治,河合千恵子,佐藤眞一,成田健一,菊池安子

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 18 ( 2 ) : 123-133, 1997
抄録
本研究では,記憶の自己評価に関する3つの尺度の検討を行った.それらは,一般的な記憶活動に関する自己評価,記憶活動に伴う情動,覚えることに対する動機に関する尺度である.57〜95歳の176人を対象に調査を行った結果,3尺度とも高い信頼性が得られた.また,これらの尺度と記憶テストとの相関関係は全体的に低く,記憶の自己評価は,能力を直接反映してはいなかった.重回帰分析の結果,もの忘れの自己評価には,身体的健康度が低いこと,視覚および聴覚の低下による問題があること,ラジオやテレビを毎日視聴することが影響を与えていた.情動尺度(忘れると落ち込みやすい)に影響を与えていたのは,抑うつ的であること,聴覚低下による問題のあることであった.覚えようとする意欲の高さを示す動機尺度に影響を与えていたのは,年齢の低さ,なにかに興味をもつという態度,新聞や本・雑誌をよく読むこと,以前の生活や仕事が記憶力を必要とするものであったという意識であった.

 

論文名


脳卒中発症者の主介護者における生活全体の満足度とその関連要因

著者名

山田晧子

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 18 ( 2 ) : 134-146, 1997
抄録
本研究は,脳卒中発症者の主介護者の生活全体の満足度に関連する要因を解析することを目的とした.対象は,発症2年後の在宅の脳卒中発症者44人とその主介護者44人である.調査は,訪問面接聞き取り法で実施した.主介護者の生活全体の満足度は,視覚アナログ尺度を用いて測定し,調査項目と比較検討した.単変量の分析を行った結果では,主介護者の年齢別では65歳以上と比べて65歳未満の人,家族の人数では2人のみと比べて3人以上の家族の満足度が有意に高かった.また,主介護者が収入になる仕事をする群で満足度が有意に高かった.ソーシャルサポートでは,同居家族からの手段的サポートの多い群で少ない群よりも満足度が有意に高かった.さらに,重回帰分析を行った結果では,暮らし向きが普通または恵まれている,発症前に主介護者の満足度が高い,発症者の屋内移動が可能である,デイサービスを利用していない群で,満足度が有意に高い結果であった.これらの結果から,主介護者予備群に対して,日頃から肯定的な対処行動をとれるような生涯教育を行うことの重要性が示唆された.

 

論文名


中高年の老人イメージ;SD法による測定

著者名

古谷野亘,児玉好信,安藤孝敏,浅川達人

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 18 ( 2 ) : 147-152, 1997
抄録
45〜64歳の男女565人を対象として,SD法により老人イメージの測定を行った .調査対象者には 19個の形容詞対のそれぞれについて5段階の評定を求めた.因子分析の結果,「力動性」「親和性」「洗練さ」の次元を表す3つの因子が抽出された.因子ごとの得点を算出したところ,平均値はいずれも中立点をわずかに上回った.ただし,力動性の平均得点は,親和性および洗練さの平均得点より有意に低かった.また力動性の評価は,女性より男性,高学歴の者ほど否定的であった.

 

論文名


平成7年度東京都老人福祉施設入所者健康実態調査(1);昭和62年調査との比較

著者名

本間昭,新名理恵,坂田成輝

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 18 ( 2 ) : 153-161, 1997
抄録
平成7年4月1日の時点で都内に開設されているすべての老人ホーム233施設の入所者22,080人を対象に健康実態に関するアンケート調査を行った.1か所のケアハウスを除いて集計した結果の一部を昭和62年に行われた同様の調査結果と比較した.回収率は全体で94.7%であった.全体の平均年齢は81.0歳であり,前回調査と比べ入所者の高齢化,とくに特養入所者の高齢化が示された.この変化に伴い入所者における身体疾患の有病率の増加および全般的ADLの低下が認められた.全体では半数強に痴呆に関連する精神症状がみられた.前回の結果でも同様であった.今回の結果でみられた変化は施設入所者の高齢化に伴う結果であると考えられるが,同時に現在まで人員配置基準に変化がないことを考慮すると職員の介護の負担が増加していることも示すといえる.今後の施設サービスのあり方で検討を要すべき課題の一つであることを指摘した.