論文名 |
高齢者の人権擁護
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著者名 |
斎藤正彦
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雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,
21
(
1
)
:
9-14,
1999
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抄録 |
高齢者に対する保健,医療,福祉分野の人権問題について概観した。臨床において,人権問題に直面するときは,社会権と自由権,個人の人権と周囲の人々の人権あるいは社会の安全など,相互に矛盾する要求を満たすという困難な課題への対応を迫られる場合が多い。専門職にあるものは,こうした場合,社会全体の価値観に謙虚に耳を傾ける必要がある。ここでも,専門家は,自己の職業的価値観,倫理観と社会の価値観とのギャップに直面せざるをえなくなる。しかしながら,その構成員である個人の人権を守るためのコストを負担し,リスクを負っているのは専門家ではなく社会全体なのであるから,専門職にあるものは,いたずらに自己の価値観に拘泥してはならない。この小論ではほかに,自律と自立,意思能力,痴呆症ケアの法的枠組み,チームケアと守秘義務,成年後見法等をとりあげて論じた。
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論文名 |
介護サービスが高齢者に及ぼす効果に関する介入研究 ;特別養護老人ホームにおける「声かけ」の効果の検証
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著者名 |
武村真治,橋本廸生,古谷野亘,長田久雄
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雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,
21
(
1
)
:
15-25,
1999
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抄録 |
日常的な介護サービスである「声かけ」が特別養護老人ホームの入所者に及ぼす効果を,介入研究によって明らかにすることを目的とした。対象は特別養護老人ホーム8施設の入所者各10人程度,計82人とした。入所者とのコミュニケーションのきっかけとしての「会話声かけ」と,入所者の行動を誘発するための刺激としての「行動声かけ」に関して,それぞれの声かけの量を介入前よりも増加する群と同じ量とする群を設定し,全部で4つの群に対象施設を割り付けた。介入したサービス量として,対象者が施設職員に声をかけられた回数を測定し,介入が適切に実施されたことを確認した。 中里らが開発した高齢者用行動評価表を用いて,対象者の介入前後の状態を測定した。その結果,会話声かけは入所者の対人関係,問題行動の状態を改善させる効果があること,行動声かけは痴呆の状態に悪影響を及ぼすこと,どちらの声かけもADLの改善に寄与しないことが示された。
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論文名 |
農山村地域における老親子関係と空間的距離
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著者名 |
田原裕子,荒井良雄
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雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,
21
(
1
)
:
26-38,
1999
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抄録 |
本研究は老親子間のソーシャルサポートが成立しうる空間的距離を明らかにし,なぜ,その範囲であれば成立するかについて検討することを目的とした。調査は岐阜県清見村の65歳以上の在宅高齢者を対象として実施し,262人(世帯)より別居子616人に関する回答を得た。老親子関係の指標には別居子による訪問頻度を用いた。 分析にあたっては,第一に老親子の居住地間の距離を測定し,その空間的分布を考慮して15km圏,40km圏,150km圏,150km以遠の4段階に類型化した。第二に,老親子間のタイを単位として空間的距離を独立変数,訪問頻度を従属変数として,χ による母比率の差の検定を行った。その結果,月に1回以上の訪問は40km圏,年に1回以上の訪問は150km圏内であるかどうかによって有意な差があることが明らかになった。 続いて,このような対応関係が成り立つ理由について,時間地理学の概念を援用して検討した。 その結果,別居子の大半を占めるサラリーマン男性や就業している女性が,日常生活に大きな支障をきたすことなく,月に1回以上老親宅を訪問するためには半日程度で,年に数回以上訪問するためには1〜2日程度で往復できる範囲に限られ,その範囲がそれぞれ40km圏,150km圏に該当することが明らかになった。
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論文名 |
高齢者の居住状況とストレス;プライバシー欲求の視点から
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著者名 |
城佳子,児玉桂子,児玉昌久
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雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,
21
(
1
)
:
39-47,
1999
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抄録 |
本研究の目的は,高齢者の居住状況およびプライバシーの欲求度,達成度がストレス反応の生起に及ぼす影響を明らかにすることである。居住状況とは,施設入居と在宅,さらにそれぞれの居住スペースの使用形態とした。プライバシーは親和,非侵入,独居,ひきこもりの4因子からなる尺度,ストレス反応は身体的反応,心理的反応の因子からなる尺度を用いて,在宅高齢者,施設高齢者を対象に測定した。本研究の結果,施設高齢者は在宅高齢者よりプライバシーの達成度が低く,心理的ストレス反応が高いことが明らかにされた。また,高齢者のストレスを理解するには,単に居住スペースの使用形態という要因ではなく個人のプライバシー欲求,達成の認知という心理的な要因を合わせて考えることの必要性が示された。
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論文名 |
在宅痴呆性老人家族介護者の価値変容過程
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著者名 |
天田城介
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雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,
21
(
1
)
:
48-61,
1999
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抄録 |
本研究の目的はホームヘルプサービス利用者である13人の痴呆性老人家族介護者による価値変容過程を,社会学的な分析モデルを設定することによって実証的に分析することである。方法としては,「価値〓value〓」概念をポジティブ・ネガティブ・アンビバレントの三基準から分類可能なように操作化したうえで,痴呆性老人家族介護者を対象者とし,回顧的質問を中心にした非指示的面接法によって収集したデータの分析を行った。 結果として,家族介護者の認識は,(1)否定的価値,あるいは肯定的価値といった両極的な評価よりもむしろ双価的なそれであることが多く,その期間もきわめて長期に及ぶこと,(2)多くの場合,価値は3〜5のパターンを移行してゆくこと,(3)そのパターンは[前期アンビバレント−ネガティブ−後期アンビバレント−ポジティブへの移行]といった諸局面を経過する一定の方向性を志向するものであること,しかしその一方で,(4)必ずしもその方向性を経過するとはかぎらず, 介護プロセスの進行とともに個別的な方向性を有することが明らかになった。 以上の価値変容過程の結果から,痴呆性老人と家族介護者の相互作用過程が特有の文脈性を構成するのは,バイオグラフィーとフレームによって規定されているからであると考察された。
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論文名 |
痴呆性老人に実施した高齢者用絵画統覚検査(PAAM)の有効性と心理的特性に関する研究
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著者名 |
日下菜穂子
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雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,
21
(
1
)
:
62-75,
1999
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抄録 |
痴呆性老人の心理的側面の理解を深めるためには,客観的な評価だけではなく,直接個人の内的世界にアプローチする必要がある。そこで本研究では,臨床の場での利用を考慮し,高齢者用に開発された絵画統覚検査であるPAAMが,痴呆性老人に施行可能かどうかを検証した。さらに,PAAMの物語にどのような痴呆性老人の特性が現れるかを検証することで,PAAMの痴呆性老人への利用の可能性を検証した。 物語の形式的側面の分析の結果から,重度痴呆であっても,分析可能な物語が語られる場合があることが明らかになった。そして物語の形式的側面と内容的側面には,問題解決能力,適応能力,内省力などの高度な知的機能の痴呆の重度化に伴う低下という,痴呆性老人の特性が現れていた。 これらの結果から,PAAMは痴呆性老人に対しても施行可能な手法であり,痴呆性老人の心理的な特性を把握するためにも有効であることが示唆された。
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論文名 |
在宅痴呆性老人に対する介護にかかわる社会・家庭的負担評価票(CBS)の作成とその臨床的意義の検討
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著者名 |
木之下明美,朝田隆
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雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学,
21
(
1
)
:
76-85,
1999
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抄録 |
在宅痴呆性老人の主たる介護者に対する社会・家庭的負担評価票(CBS)を作成し,その信頼性と妥当性を検討した。本票は介護者の介護負担を精神的側面からではなく,社会・家庭生活上の制約として把握する評価尺度である。臨床現場での実用性や簡便さを考慮し,WHOのhandicapの障害概念を応用して作成した。 145人の痴呆性老人およびその主たる介護者において測定を行った結果,テスト・再テスト信頼性により本票の信頼性は確認され,内的整合性も確かめられた(完全一致率=83.0%,κ係数=0.59,Cronbachのα係数=0.67)。妥当性については構成概念妥当性が確認された。 さらに本票の臨床的意義を検討した。その結果,CBSの測定内容自体に焦点をあてた支援を行うことによって,介護者の「精神的健康」は改善され,ひいては1年以内の「施設入所」の延期される可能性が示唆された。
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