「老年社会科学」 Vol.23-1

   

論文名


痴呆性高齢者のグループホームケア

著者名

長嶋紀一

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 23 ( 1 ) : 9-16, 2001
抄録
痴呆性高齢者を対象としたグループホームケアについて,本邦におけるグループホームの発祥の経過,グループホームケアの基本概念,グループホームへの期待,提供されるサービス等について概観した.グループケアについては実践事例について,やや詳しく紹介したが,非痴呆在宅高齢者の現実の生活との対比までは言及できなかった.さらに痴呆性高齢者を対象としたグループホームを論じる際に生活空間にはまったく触れずに,入所者に対する具体的な働きかけについて述べるにとどめた.物理的環境が痴呆性高齢者の安心・安定した生活にとって大切な要因であることは言をまたないが,あえて具体的な種類と提供の具体的方法について論じた.

 

論文名


痴呆性高齢者のQOLを考える

著者名

本間昭

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 23 ( 1 ) : 17-24, 2001
抄録
QOL(生活の質:quality of life)は元来主観的な概念であり,Lawtonによれば日常生活動作能力(ADL),認知機能,社会的な行動などの行動で示される活動能力,高齢者が生活している環境,主観的なQOLと心理的ウェルビーイングである.このような考え方を痴呆性高齢者に当てはめることは可能であろうか.痴呆性高齢者,とくにアルツハイマー型痴呆患者のQOLを評価することの意義についてはQOLがアウトカム評価の指標の1つとして用いられることが多いという背景のもとにおおよその合意はなされていると考えていいであろう.しかし,そのための測度は自記式あるいは他者評価を含めていくつか開発されているが,合意には至っていないのが現状であろう.ひとつには痴呆性高齢者のQOLについての概念および操作的定義が研究者によって異なり,明確にされていないこともある.ここでは従来のいくつかの評価方法を紹介しつつ,それらの問題点を踏まえて,痴呆性高齢者のQOLについて著者の考え方を示した.

 

論文名


高齢者とペット動物

著者名

安藤孝敏

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 23 ( 1 ) : 25-30, 2001
抄録
人が動物とともに生活することにより,人と動物の双方に,精神的にも,身体的にも,良い影響を与えるということが明らかにされつつあり,広い意味での医療・福祉・教育に,このような成果を積極的に活用しようという機運が高まってきている.この小論では,ヒューマン・アニマル・ボンドという新しい研究分野の主要な部分を占めている高齢者とペット動物に関する研究を,ペット動物の飼育が高齢者にもたらす効果に関する研究,高齢者を対象としたアニマル・セラピーに関する研究,高齢者のペット動物飼育に関する研究,老年期におけるペットロスに関する研究の4つに分類し,それぞれの現状を概観するとともに,今後の課題について検討する.

 

論文名


地域高齢者を対象としたADL,IADL統合尺度の構成概念の検討

著者名

齋藤圭介,原田和宏,香川幸次郎,中嶋和夫

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 23 ( 1 ) : 31-39, 2001
抄録
本研究では,「拡大ADL尺度」の評価項目を基礎に,ADLとIADLの統合尺度の構成概念について確証的因子分析を用い検討することを目的とした.調査対象は,岡山県K村の65歳以上の地域高齢者全例とし,調査は郵送法で実施した.回収された調査票701人のうち,性,年齢,尺度項目に欠損値を有さない567人の資料を分析に用いた.統計解析には,共分散構造分析を用いた.ADLとIADLの統合尺度に関する構成概念の検討にあたっては,先行の研究業績を参考として因子構造モデルを理論的に措定し,標本に対する適合度を検討した.その結果,「拡大ADL尺度」の開発者が提示するADLとIADLの評価12項目からなる1因子モデルの適合度指標は統計学的な許容水準に達しなかったものの,「移動動作」に関する評価項目を除いた「身辺処理」と「IADL」の2因子9項目からなる2次因子モデルの適合度が統計学的な許容水準を満たすことを確認した.この9項目版のKR‐20信頼性係数は0.906と高く,年齢,通院治療の有無と負の関連が,自覚的健康度と正の関連が統計学的に確認された.以上の結果は,ADLとIADLとの統合尺度の構成概念として,移動動作に関する項目を除くことがより適切なことを示唆するものと判断された.

 

論文名


主観的介護ストレス評価尺度の作成とストレッサーおよびうつ気分との関連について

著者名

安部幸志

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 23  ( 1 ) : 40-49, 2001
抄録
本研究では,介護ストレスの主観的評価を測定するための尺度を作成し,要介護者の心身の障害や介護者のうつ気分との関連を検討することを目的として調査を行った.176人の介護者の回答を分析し,次の結果が得られた.(1)因子分析によって「社会的拘束感」と「身体的消耗感」の2因子が抽出された.(2)信頼性を算出した結果,両因子とも高い値が得られた.(3)両因子と,要介護者の心身の障害および介護者のうつ気分との間に有意な正の相関がみられた.(4)ストレッサーおよびストレス反応(うつ気分)との包括的関連を構造方程式モデリングを用いて検討した結果,本研究で作成された介護ストレス認知評価尺度は,ストレッサーおよびストレス反応と有意な正の関連がみられた.これらの結果から,本研究で作成した介護ストレス認知評価尺度は,ストレッサーとストレス反応との媒介機能を有していることが示唆された.これらの知見は,介護者に対する社会的支援や介入計画を発展させるうえで有用である.

 

論文名


ソウル市における在宅要介護高齢者の家族介護者の負担感;影響する要因の検討

著者名

金貞任

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 23 ( 1 ) : 50-60, 2001
抄録
本研究は,ソウル市における家族介護者を対象とし,要介護高齢者の介護者の負担感の規定要因を分析することを目的とする.使用したデータは,ソウル市に在住する60歳以上の在宅要介護高齢者の家族介護者350人に対する質問紙調査により得られたものである.分析の結果,負担感尺度の信頼性係数αが十分なレベルに達しており,韓国版として信頼性が確認された.因子分析により,「介護拘束感」,「情緒不安」,「積極型介護」が負担感を構成する次元であった.負担感の規定要因は,1)要介護高齢者の要因としては,生活自立の程度であり,2)家族介護者の要因としては,要介護高齢者の息子の妻,世話の程度,介護の動機づけ,要介護高齢者との意見の一致の程度であり,3)資源としては,家族の凝集性の強弱であった.