「老年社会科学」 Vol.25-4

   

論文名

高齢者の身体的抑制に直面する病棟勤務看護職のジレンマの概要
著者名

山本美輪,臼井キミカ

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 25(4):417-428,2004
抄録 関西圏下における14の総合病院の一般病棟に勤務している看護職(n=1,929)に,高齢者の身体的抑制に関するジレンマを明らかにするため質問紙調査を行った.その結果,有効回答はn=1,683(87.2%)で,ジレンマ20項目における信頼係数は0.78であった.また,ジレンマ16項目を用いて主成分分析(プロマックス回転)を行ったところ,KMO値0.82,Bartlettの球面性検定は有意差があったため(p<0.001),観測変数の妥当性と関連が示された.また固有値1以上の成分が4つ(治療遂行と安全確保,協働関係,高齢者看護の本質,看護業務の優先度)抽出され,ジレンマ16項目の信頼係数αを求めたところ0.76と高い数値を得たため,高齢者の身体的抑制時に看護職が感じるジレンマ項目としての妥当性が示された.
これらのことより,高齢者の身体的抑制に直面した看護職が抱くジレンマの概要が明らかとなった.

 

論文名

在宅における要介護者の摂食・嚥下障害の有無と家族機能との関連
著者名

松田  明子

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 25(4):429-439,2004
抄録 研究目的は在宅における要介護者の摂食・嚥下障害の有無と家族機能との関連を明らかにすることとした.対象は滋賀県の2施設の訪問看護ステーションを利用している介護度2以上の者178名から,性,年齢,介護度を1対1のマッチングによって抽出された摂食・嚥下障害者をもつ家族とそれをもたない家族33ペアであった.両群の主介護者から面接調査を行った.調査項目は家族機能尺度(FAD日本語版),介護に関する質問,要介護者の日常生活動作能力,経皮的酸素飽和度である.重回帰分析を用いて検討した結果,家族機能のうち問題解決機能および全般的機能は,摂食・嚥下障害の有無と正の有意な相関関係があり(P<0.05),摂食・嚥下障害者をもつ家族は,それをもたない家族に比べて低いことが明らかとなった.このことから,在宅の摂食・嚥下障害者をもつ家族に対して摂食・嚥下障害の介護方法を具体的に支援する必要があると考える.

 

論文名

高齢者のダム建設に伴う転居後の適応;抑うつに関する要因について
著者名

池野多美子,長田久雄

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 25(4):440-449,2004
抄録 ダム建設に伴い転居を余儀なくされた地域高齢者の転居後約2年の適応を,抑うつ尺度(GDS)を指標に,転居に対する納得の程度(以下,転居納得度),ソーシャル・ネットワーク,ソーシャル・サポートとの関連を探ることを目的とした.分析は地区に居住していた65歳以上高齢者のうち回答のあった161名を対象とし,転居先は,同市内の集団移転先,市内,市外にほぼ同率で移られた.GDS得点は,市外転居者が他の転居者より有意に高く,「近所」「友人」との交流についても市外転居者が有意に低下していた. GDS得点を従属変数として重回帰分析を行った結果,主観的健康感,転居納得度,転居先,転居後のソーシャル・ネットワーク「近所」が関連していた.主観的健康感は先行研究を確認するものであるが,ソーシャル・ネットワークが転居納得度にも反映しつつ,抑うつと関連していると推察された.

 

論文名

痴呆性高齢者の家族における介護実践力に関する研究
著者名

宮上多加子

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 25(4):450-460,2004
抄録 本研究では,家族介護者が介護を実践する力(介護実践力)を向上させるための方策について検討する.痴呆性高齢者の家族会会報に掲載された介護体験記事を基礎資料として,成人を対象とした生涯学習という観点から分析を行った.質的分析の結果,家族介護者は在宅介護を継続していくなかで,痴呆症状の特徴をより深く理解し,具体的な対応方法を工夫していた.また,介護経験を共有したり,相対化することにより自分自身の状況を客観的にとらえ直して介護への認識を変化させていた.さらに痴呆性高齢者との人間関係を変化させて,痴呆症状に伴う問題行動に柔軟に対応している例もみられた.
家族介護者の介護実践力向上を目的とした学習においては,痴呆介護についての知識や介護技術の習得に加えて,Arnoldのいう「日常意識」(成人のもつ認識の枠組み)を柔軟に変容できるように支援することが教育目標となることが示唆された.

 

論文名

家族介護者の介護肯定感の形成に関する要因分析
著者名

陶山啓子,河野理恵,河野保子

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 25(4):461-470,2004
抄録 高齢者を介護する家族の介護ストレス対処行動と介護肯定感の構造を明らかにし,介護肯定感がいかなる要因に関連して形成されるかを検討することを目的とした.主介護者184名を対象に,質問紙を用いた聞き取り調査を実施した.
介護に対するストレス対処行動は,「回避型」「問題解決型」「接近型」の3因子が,介護肯定感には,「介護状況に対する充実感」「自己成長感」「高齢者との一体感」の3因子が抽出された.介護肯定感3因子は「接近型」の対処行動と関連が認められ,介護肯定感形成には介護者と高齢者の関係が重要であることが明らかとなった.「自己成長感」には,介護負担を軽減する「問題解決型」や介護というストレッサーを一時遠ざける「回避型」の対処行動が有効であることが明らかとなった.また,「介護状況に対する充実感」は,介護者が配偶者であることや健康状態がよいという介護者の特性との関連が認められた.

 

論文名

在宅介護の継続希望と関連する要因
著者名

李 文娟

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 25(4):471-481,2004
抄録 介護者における在宅介護の継続希望,および第三者からみた在宅介護の困難性に関連する要介護者,および介護者の特性を明らかにすることを目的として,在宅サービスを利用している65歳以上の者574名に対して,保健師,あるいはヘルパーによる聞き取り調査を実施した.有効回答が得られた者で,介護を要する状態が1年以上継続していると回答した238名を分析対象とした.分析の結果,介護者における在宅介護の継続希望と有意に関連する要因は,要介護者が男性であること,介護者が就労していないこと,および経済状況が良好であることであった.また,介護者における大きな負担感,および調査員による在宅介護困難の判断は,介護者の心身状態と有意な関連がみられた.在宅介護を存続させるためには,要介護者を抱える家族に対する経済的な支援,および介護者の心身負担を軽減するための支援体制の確立が必要であると考えられた.

 

論文名

虐待が疑われた高齢者の状況改善に関連する要因;介護保険制度導入前後の変化
著者名

加藤悦子,近藤克則,樋口京子,久世淳子

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 25(4):482-493,2004
抄録 目的:放置あるいは身体的・精神的虐待が疑われた高齢者(虐待ハイリスク者)の介護保険導入前後の変化,リスク改善に有効な援助法を検討する.
対象と方法:2自治体で要介護認定を申請した高齢者623人に,1999年度後期と1年後,訪問調査員が放置,身体的・精神的虐待のリスクを評価した.
結果:虐待ハイリスク者は17.2%(95%信頼区間 14.2%−20.2%)みられたが,1年後に4-5割で状況改善していた.改善率は「放置のみ」55.1%,「虐待のみ」42.9%,「放置と虐待の複合」35.7%で,タイプ別に違いがみられた.状況変化には介護サービス利用や適切なケアマネジメントが有意に関連していた.放置タイプでは介護の補充,虐待タイプでは介護者と高齢者を引き離すプランで状況改善が有意に多かった.
結論:介護保険下の介入により虐待ハイリスク者の約半数が状況改善した.状況改善に効果的なケアプランは虐待のタイプにより異なることが示唆された.
 

 論文名

ホームレスの高齢化;現状と課題

著者名

竹嶋祥夫

雑誌名
巻/号/頁/年

老年社会科学, 25(4):494-498,2004

抄録

 ホームレスは増加の傾向にあり,本年1−2月時点で約25,000人,全国581市町村に存在している.これらホームレスの生活実態調査によれば,ホームレスとはおおむね男性,単身で,年齢層的にはまさに50歳代以上の中高年齢層の問題といえる.彼らは常勤的職業から直接,また,日雇労働者やサービス業に転職後,倒産・失業・仕事の減少,傷病などのため,収入の道を閉ざされた者が多い.また,失業以外に家族関係の崩壊や住居の喪失など,多様な要因が絡み合ってのホームレスへの転落となる.彼らに対する救済・支援策は国・地方自治体,NPOやボランティアなどによって多種多様な内容が試みられ,それぞれ成果を上げているが,さらなる努力を期待したい.それには,@ホームレスの多様性を容認したうえでの対応,A根絶を目指した量的・質的な配慮,B個室的住居スペースの確保・提供,C多様な就労機会の拡大,等が必要である.