「老年社会科学」 Vol.27-1 詳細一覧  
   

原著論文

論文名

高齢者の主観的健康感と老いの自覚との関連性に関する検討
著者名

水上喜美子

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 27(1):5-16,2005
抄録  本研究の目的は,高齢者の主観的健康感に「老いの自覚」という心理的要因が関連する要因のひとつになりうるのかを検討することである.60歳以上の高齢者123人を対象に,質問紙と面接調査を用いてデータを収集した.この結果,高齢者の主観的健康感には,老いの自覚,老研式活動能力指標,ソーシャルサポートにおけるポジティブ・サポート,互いに行き来する近所の数(近隣数),主観的生活満足度(LSI-K)における下位尺度の老いの評価などが関連していることが認められた.主観的健康感には,従来では指摘されることの少なかった要因である「老いに関する自己認知(LSI-Kの老いの評価,老いの自覚)」が関係していることが明らかになった.すなわち,老いを肯定的にとらえている人ほど元気で自身の有用感を意識し,主観的に健康だと評価しやすいのではないかと推察された.

 

論文名

関係の重複が他者との交流に及ぼす影響   都市男性高齢者の社会関係 ―
著者名

古谷野旦,西村昌記,矢部拓也,浅川達人,安藤考敏

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 27(1):17-23,2005
抄録  大都市の6079歳の男性高齢者を対象に,他者との交流に対する関係の重複の影響について検討した.対象者には,同居家族と別居子・別居子の配偶者以外で「お付き合いのある方」を最大15人まであげることを求め,その1人ひとりについて交流の経緯と現在の交流をたずねた.この手続きによって,766人の回答者と3,590人の他者との間の社会関係に関する情報を得た.現在の交流の態様を表す6つの指標について因子分析を行い,因子得点を従属変数とする多重分類分析によって,関係の重複の影響を検討した.知り合ったきっかけなどの他の変数の影響を取り除いたときにも,因子得点に対する関係の重複の有意な影響が認められた.関係の重複が多い他者,すなわち知り合った後に重ねられた,知り合った契機とは別の関係が多い他者ほど,情緒的な親密さを感じることが多く,また家族ぐるみの付き合いをしたり,手段的サポートの提供者になることが多い傾向にあった.

 

論文名

介護技術の測定  ― ダイヤ式介護技術チェックシートの開発 ―
著者名

滝波順子,古谷野旦,石橋智昭,蜂谷幸夫

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 27(1):24-33,2005
抄録  介護技術の水準を客観的に評価するための「ダイヤ式介護技術チェックシート」を開発した.介護技術チェックシートは4課題20項目から構成されている.課題は「おむつ交換」「嚥下困難者への食事介助」「ベッド上での洗髪」「車いすへの移乗」の4つである.チェック項目のうちの10項目は3つの共通因子 −「コミュニケーション」「体位保持」「差し入れ動作」− の指標,10項目は課題特有の必須動作であって,10項目と20項目の得点を算出することができる.現任のホームヘルパー341人を被験者とする試験評価の結果,3つの共通因子を第1次因子として含む2次因子モデルの適合度がきわめて高く,介護技術チェックシートの構成概念妥当性が示された.第2次因子「介護技術」の因子得点と合計得点との間には強い相関関係があり,第2次因子を真値と考えたときの信頼性が高いことが示された.

 

論文名

在宅高齢者の生活意欲とそれに関連する要因
著者名

久保昌昭,横山正博

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 27(1):34-42,2005
抄録  本研究の目的は在宅高齢者を対象に,生活意欲が日常生活に及ぼす影響について,その関連要因を明らかにすることである.分析では生活能力,生活意欲,生活機会という潜在変数を仮定して,その因果関連について構造方程式モデリングにより分析した.採択したモデルは適合度指標がGFI0.926AGFI0.885)及びRMSEA0.056であり,共にモデルを採択する基準を満たすものであった.その結果,生活意欲に影響する要因として健康度自己評価,体力自己評価,外出頻度が関係していた.またパスは仮説モデルと逆となり,生活意欲が生活能力と生活機会に影響を与えていた.生活意欲を高め,生活能力や生活機会を維持するためには,外出頻度の増加を促すことと,個人の健康度や体力評価への認識を強化して介入することが重要である可能性が示唆された.

 

論文名

夫を在宅で介護する妻の介護役割受け入れプロセスにおける夫婦関係の変容
 
 修正版クラウンデッド・セオリー・アプローチによる 
著者名

林 葉子

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 27(1):43-54,2005
抄録  本研究の目的:要介護高齢者である夫を在宅介護する妻の介護役割に対する解釈や意味付与のプロセスを検討することにある.対象者は東京在住の要介護の夫を在宅で介護している妻33名である.詳細な半構造的面接調査を行い,会話分析には修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いた.結果:妻の介護役割受け入れプロセスは,過去の夫婦関係を見直し,現在の夫婦関係を再構築,自分自身の気持ちを調整して,夫が要介護になったという現実を受け入れ,それら全てを生活として受け止め,介護役割を超える積極的な生活感覚を持つようになるプロセスといえる.ジェンダー規範,家族規範,夫婦規範,伝統的介護役割規範など,これまでいわれてきた介護にまつわる規範は,高齢の妻介護者世代にその影響を色濃く残しながらも,社会全般からみれば女性に対する規範自体は空洞化しつつあり,それらの規範を自己解釈していくたくましさを妻介護者の中に見出せた.

 

特集  サービス評価のあり方

論文名

高齢者保健福祉サービス評価研究の動向と課題
著者名

冷水 豊

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 27(1):55-64,2005
抄録  特集「サービス評価のあり方」の総説的な論文として,わが国におけるサービス評価の制度化の動向およびサービス評価の基本的枠組みを概説した上で,高齢者保健福祉サービス分野におけるサービス評価(主に事業評価および臨床評価)研究の近年の動向をレビューし,それを総括する形で今後の研究課題を次のとおり整理した.@サービス評価研究は,近年介護サービス関連の事業評価を中心に急速に進んでいるが,介護予防などに関連して長期的効果を評価するための長期縦断研究の必要がある.A臨床評価も回想法の効果評価などを中心に徐々に進んでいるが,多様な専門的臨床方法の開発と並行して進める必要がある.B評価次元に関しては,サービス評価の中心課題である結果・効果評価が多いが,事業レベルでの効率評価,社会福祉など結果・効果指標の設定が難しい分野での過程評価の進展が課題である.C評価方法に関しては,一部で準実験デザインが採用されているが,意図的な評価デザインの開発が大きな課題である.また評価指標に関しては,制度・実践レベルで活用可能なものも含めた多様な開発が必要である.

 

論文名

介護福祉サービスに関する評価研究の動向と課題
著者名

平岡公一

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 27(1):65-73,2005
抄録  わが国における介護保険サービスに関する評価研究の動向を検討するとともに,この分野の研究の課題と展望について論じた.評価研究の動向に関しては,まず,政策評価の手法の開発や,パネル調査や繰り返し調査という調査設計の採用,質的調査を含む総合的な調査研究の実施などで特徴づけられる総合的な評価研究が近年実施されていることに注目し,その内容を紹介した.続いて,@サービス供給体制再編の経過と結果に関する研究A介護保険サービスのアウトカムや費用対効果に関する研究Bサービス評価の制度化に対応した研究開発Cサービス開発とサービス供給体制再編に結びつく研究という4つのタイプを設定し,それぞれいついて研究動向を検討した.最後に,プログラム評価論の枠組みに即した評価研究の実施,学際的な研究交流と研究レビューの実施,介護保険の業務データと独自の調査データを結びつけたデータ分析の実施,質的方法の活用等に関して,研究の課題と展望を論じた.

 

論文名

認知症予防活動の効果評価と課題
著者名

矢冨直美

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 27(1):74-80,2005
抄録  認知症発症の抑制や遅延を目的としたプログラムの効果評価の側面として,プログラムの参加率などの経過評価や,ねらいとしたリスクファクターに関わる行動習慣を変化させた成功率などの影響評価,認知症の発症率などの結果評価の3つの側面を区別することができる.結果評価においては,評価の対象として認知症の発症率,認知機能の変化,手段的日常生活能力の変化を考えることができる.認知症の移行率については臨床的痴呆尺度(CDRClinical Dementia Rating)などの医学的診断,認知的機能の変化では,ウェックスラー記憶検査法などの神経心理学的検査,MMSE(Mini Mental State Examination)やファイブ・コグ検査などの痴呆簡易スクリーニング検査,手段的日常生活能力では,15項目版手段的日常生活能力尺度などの評価法を紹介し,それらの特徴と課題について論じた.

 

論文名

イギリス自治体社会サービスの行政評価
著者名

長澤 紀美子

雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学, 27(1):81-89,2005
抄録  イギリスにおいて,社会サービスの行政評価は,自治体における「サービス水準の向上」を目標として設計され,近年の自治体行政評価全体の政策展開に伴い,枠組みの改訂がすすんでいる.当初の枠組みは,PAF指標として1999年に特定され,全国の自治体に公表・報告が義務化されたが,2002年度から格付け評価のしくみも導入された.行政評価のしくみは自治体に確実に定着しつつあるとともに,評価の一手法としてのみでなく,経営の質を高めるための機能に焦点が移行している.

 本稿は,イギリスにおける自治体社会サービス部の行政評価の最新動向を把握し,社会サービス部門の課題を整理することに主眼をおくものである.イギリスでの一連の取り組みから,わが国の今後の福祉行政分野が吸収する知見は決して少なくないと考えられる.

 

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