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「老年社会科学」 Vol.27-4 詳細一覧 |
原著論文 |
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論文名 |
認知症患者の介護者の心理状態の移行と関係する要因について ;心理的援助の視点からみた介護経験 |
著者名 |
鈴木亮子 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 27(4):391-406,2006 |
抄録 | 本研究は,認知症患者の介護者の心理状態の移行に関係する要因を検討し,心理状態の移行時における援助的視点を得ることを目的とした.認知症患者の女性介護者8人に半構造化面接を実施し,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチによりデータを分析した.被介護者の受診後の介護者の反応は,衝撃や否認の有無に分かれたが,両者ともに苦悩しつつも,介護者役割を受け入れる努力を重ねていた.役割の受け入れ後,認知症となった被介護者の受け入れができる介護者と,役割にとどまることに葛藤を抱く介護者がいた.被介護者の死を経験した介護者は,その死を受け入れ,介護経験そのものも受け入れていた.この心理状態の移行には,そのつど生じた「ギャップを埋める」作業が関係していた.どの移行時にどのような「ギャップを埋める」作業をしていたかの知見を得ることにより,「ギャップを埋める」ことへの介入が,心理的援助につながることが示唆された. |
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論文名 |
高齢者ケア
の規範 ;扶養期待感とジェンダー規範の関連を中心に |
著者名 |
山口麻衣 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 27(4):407-415,2006 |
抄録 | 本研究の目的は,ケア規範を扶養期待感とジェンダー規範の関連から分析することおよびケア規範の男女差を分析することである.N県C市の60〜74歳の有子高年者(有効N=745人)を対象とした調査データを分析に使用した. 主な結果として,@探索的因子分析(斜交モデル,プロマックス法)の結果,扶養期待感,性別役割分業観,非伝統的分業状況下家庭内役割分担観の3因子モデルが採択され,扶養期待感と性別役割分業観因子間の相関が高いこと,A検証的因子分析の結果,修正版8変数2次因子モデルがケア規範モデルとして採択(CFI=.998,RMSEA=.025)されたこと,B因子得点の男女差分析の結果,ケア規範,扶養期待感,非伝統的分業状況下家庭内役割分担観は有意に女性が弱いが,性別役割分業観は有意な男女差がないことがあげられる.以上の結果から,本研究によりジェンダーの視点を加味しながら高齢者自身のケア規範を把握する有用性が示されたといえよう. |
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論文名 |
要介護者にみられる軽度のBPSDと家族介護者の主観的QOLの関連 ;BPSDの特徴は家族介護者のQOLを予測できるか |
著者名 |
北村世都,時田 学,菊池真弓,長嶋紀一 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 27(4):416-426,2006 |
抄録 | 本研究の目的は要介護者のBPSDが家族介護者の主観的QOLとどのような関係にあるのかを明らかにすることであった.東北地方A市在住で在宅の要介護認定者の家族介護者7,500人に対し,平成15年1〜2月に郵送法にて質問紙調査を行った.調査内容は介護者・要介護者の属性・介護者の主観的QOL,要介護者のBPSD 17項目であった.BPSD 17項目の等質性分析を行った結果,認知機能障害,異常性,易怒性・猜疑心の3つの次元が得られた.配偶者・子ども・子どもの配偶者のいずれかの続柄に当たる3,888人に対しQOLの上位群・下位群を設定し,3つの次元得点を説明変数,QOLの上位群・下位群を目的変数としてステップワイズ法による判別分析を行った結果,認知機能障害,易怒性・猜疑心の次元がよく上位群と下位群を判別したが,下位群の判別力は弱かった.また判別力は続柄により異なるパターンを示した.以上より,続柄の違いや介護者と要介護者との関係性のあり方がBPSDへのとらえ方の違いを生んでいる可能性を指摘した. |
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論文名 |
介護職員の主観的ストレスに影響を与える要因 ;職場特性を中心とした検討 |
著者名 |
畦地良平,小野寺敦志,遠藤 忠 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 27(4):427-437,2006 |
抄録 | 本研究は,介護職員の主観的ストレスに影響を与える要因を明らかにすることを目的とした.調査対象は介護職員635人であった.職員の主観的ストレスを目的変数とし,介護現場での取組みを中心とした職場特性などを説明変数として,重回帰分析を行った.その結果,入所施設,グループホーム,デイサービスの3つのサービス形態によってストレスに影響を与える要因に違いがあること,また,サービス形態を問わず利用者の受容がストレスと関連していることが示された.さらに,介護方針の把握と主観的ストレスについてMann-Whitney検定を行った結果,介護方針の把握がストレスの程度に影響を及ぼすことが示された.これらのことから,利用者の受容とともに職員の自己受容についての十分な職員教育と,介護理念や方針の明確化と浸透を徹底することが必要であるといえる.今後はストレスの現状解明だけではなく,ストレスマネジメントの方策に関する研究がさらに求められる. |
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資料 |
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論文名 |
地理的移動の結果とエイジング意識 中学校同期卒業生を対象にしたエイジング意識調査から |
著者名 |
森内紀一 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 27(4):438-444,2006 |
抄録 | 本研究は,居住地域がエイジング意識に対してどのような意味をもっているかについて,探索的な検討を行うことを目的としている.同一中学校を卒業し,62歳を迎えた同期生217人を対象に,郵送による質問紙調査を行い,120人から回答を得た.その結果,生まれ故郷を離れて,出身県以外に居住している男性は,「30歳から50歳にかけて年をとること」を,プラスよりに評価しているが,「60歳から80歳にかけて年をとること」については,マイナスよりに評価していた.一方では,県外の女性,および出身県内に居住している男性は「60歳から80歳にかけて年をとること」を, もっともプラスよりに評価していることなど,年をとることの評価は,性別・居住地別の要因が影響しあっていることが示唆された.この結果は,エイジング意識研究における,地理的移動後の居住地の要因の重要性を示すものと考えられた. |
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論壇 |
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論文名 |
わが国の要介護認定の特徴と今後の課題 |
著者名 |
筒井孝子 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 27(4):445-452,2006 |
抄録 | 本稿では,わが国の介護保険制度における要介護認定を取り上げ,第1に,要介護認定システムの特徴を示し,第2に,これが日本の介護や介護サービス供給に及ぼした影響を述べ,第3に,これまでの改定の経緯とその結果の概略を示し,第4に,このシステムの今後の課題を明らかにした.わが国では,要介護度の判定は,介護の手間を要介護認定基準時間として数量化し,その判定方法を標準化した ものである.このことは,高齢者に必要とされる介護サービス時間を指標として分類を行う要介護認定システムが,介護サービス提供における基本となった ことを意味する.また,判定に際して導入されたコンピュータシステムは,厚生労働省と全国の市区町村を結ぶネットワークシステムとして機能しており,公正,正確,迅速さを備えたシステムとなっている.今後の課題としては,制度の改革に伴うシステムの正確度の向上,予見性の向上のための研究開発が求められる. |
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論文名 |
新しい介護保険制度における閉じこもり予防・支援 |
著者名 |
安村誠司 |
雑誌名 巻/号/頁/年 |
老年社会科学, 27(4):453-459,2006 |
抄録 | 介護保険制度が2006(平成18)年4月から改正となり,新予防給付・地域支援事業という介護予防事業が導入されることになった.閉じこもり予防・支援が認知症予防・支援,うつ予防・支援とともに地域支援事業に位置づけられた.閉じこもり高齢者の頻度やその関連要因,予後など,疫学データが近年蓄積されつつある.しかし,閉じこもり予防・支援に関して有効性を示唆する研究結果は少ない.要介護状態にない一般高齢者に対する対策を中心に閉じこもり予防・支援のサービスが実施されることになるが,訪問による個別的なサービス提供も重要である.新たに実施されるサービスの効果を評価し,有効と考えられるサービスを展開していく必要がある.閉じこもり予防・支援に関しては学際的アプローチが重要で,日本老年社会科学会の果たす役割はきわめて大きい. |