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日本老年社会科学会 Japan Socio-Gerontological Society

:老年社会科学 2023.4 Vol.45-1
論文名 男性定年退職者7人を対象とした喪失体験克服の諸要因と周囲の人間関係の検討
著者名 髙野由紀子,大園康文,小野充一
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,45(1):7 − 16,2023
抄録  定年退職を経験した男性に,①定年退職以前から行っていたことはどのようなことか,②定年退職後をどのように過ごしたいと考えていたか,③定年退職に伴う喪失体験を克服する過程で周囲の人間がどのように関係したか克服に至る契機となったことはどのようなことか,について検討を加えることを目的とした.研究対象者を定年退職後5年以上経過し,現在は社会活動を行っている男性7人とし,半構造化面接による個別インタビュー調査を行った.収集したデータはKJ 法を用いて分析した結果25のサブカテゴリー,6のカテゴリーを生成した.相互の関係を検討しA型図解化,B型文章化を行った.その結果,定年退職により失った肩書や役割を伴う職業人生に執着し,移行後の生活の場である地域社会や家庭での役割を受け入れられず周囲との関係を構築できずにいることと,喪失体験の克服には身近な人々の存在が関連していることが明らかになった.さらに,定年退職後の姿は周囲と折り合いをつけたものであり,定年退職の経験は新たな喪失の準備として認識している状況が認められた.
キーワード 定年退職,人間関係,喪失体験,克服過程

論文名 初期認知症の支援に携わる地域包括支援センターと
訪問看護ステーション看護職の困難経験
著者名 家根明子,小野塚元子,木谷尚美
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,45(1):17 − 27,2023
抄録  北信越地域の地域包括支援センター(センター)と訪問看護ステーション(ST)の看護職に質問紙調査を実施し,初期認知症の支援での困難経験を明らかにした.困難経験として,センター看護職では,【サービス導入など継続的な支援が難しい】【社会全体で支える仕組み,風土が不十分ななかでの支援】【認知症専門医療機関につながらない】【専門職としての力量が不足】の4コアカテゴリー,ST 看護職では【初期認知症者と家族の状況に適した看護が効果的に提供できない】【訪問看護受入れへの抵抗】【本人と家族・住民の思いの調整に苦慮する】【初期ゆえに本人との関係づくりに苦心】【社会資源や制度の不十分さ】【認知症専門医療機関につながらない】【専門職としての力量が不足】の7コアカテゴリーが抽出された.センターとSTの看護職のもつ強みを生かした実践が,地域での初期認知症の支援に対する看護実践の向上につながると考える.
キーワード 初期認知症の支援,地域包括支援センター,訪問看護ステーション,困難経験

論文名 要介護者・認知症者の重度化予防・ウェルビーイング向上に対する社会的要因
著者名 野口泰司
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,45(1):29 − 34,2023
抄録  本稿では要介護高齢者および認知症者の重度化予防・ウェルビーイングの向上に対する社会的要因について報告した.要介護高齢者においても社会的ネットワークや孤食などの社会関係が重度化予防に寄与する可能性があり,社会的機能の評価やリハビリテーションの重要性が示唆された.また,高齢者や認知症にやさしいまちづくりは,要介護高齢者や認知症者の社会参加を促進しウェルビーイングを向上させる可能性がある.特に認知症者およびその家族に対しては,認知症スティグマの克服を推進することは認知症との共生を実現していくうえでも必要である.
キーワード 社会的要因,重度化予防,高齢者にやさしいまち,認知症スティグマ

論文名 要介護者・認知症者による意思決定への参画とウェルビーイング
著者名 小松亜弥音
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,45(1):35 − 39,2023
抄録  本稿では,要介護者・認知症者のケアに関する意思決定への参画とウェルビーイングとの関連についての研究の現状と課題を報告した.要介護者・認知症者の意思決定への参画はウェルビーイングに重要であることが複数の研究で示唆されている.一方で心理的側面との関連の検討が多く,身体的・社会的側面も含めた包括的なウェルビーイングとの関連の検討は乏しい.加えて,多くの研究が横断的検討に留まっている.研究の蓄積にも重要な役割を果たすと考えられる意思決定への参画を測定する尺度は,認知症者向けには開発されているが,欧米諸国での検証が中心であり,非認知症者への適用可能性は検討されていない.今後,要介護者・認知症者が重度化しても利用可能な意思決定の参画を測定する尺度の開発を行い,ウェルビーイングとの関連性を検討する縦断研究・介入研究の蓄積を進めていく必要がある.
キーワード 意思決定,自律性,認知症,要介護高齢者,ウェルビーイング

論文名 認知症者のウェルビーイング-概念と測定-
著者名 中川 威
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,45(1):40 − 44,2023
抄録  本稿では,認知症者のウェルビーイング研究の進展に向けて,研究の現状と課題を報告する.まず,認知症者のアウトカムとして,主観指標が重視されつつある歴史的変遷を述べた.次に,同じ概念と誤解されがちなQOL( 生活の質)とウェルビーイングの違いとして,QOL の一側面としてウェルビーイングが包含されること,ウェルビーイングの測定では本人評価が主に用いられる一方,QOL の測定では代理人評価や観察評価がよく用いられていることを述べた.最後に,認知症者のウェルビーイングの定義は合意が得られておらず,認知症者による本人評価の信頼性と妥当性は十分に検証されていないという課題を指摘した.今後,本人評価や代理人評価を適用できる基準(たとえば,本人と代理人の認知障害の程度)を精緻化するとともに,認知症者が回答しやすい本人評価による測定法および本人評価を代理人評価や観察評価で補う測定法の開発・改良を検討すべきである.
キーワード 認知症,高齢者,代理人評価,QOL,自己評価

論文名 認知症者や要介護者本人を対象とした研究の必要性とそのボトルネック
著者名 村山洋史
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,45(1):45−50,2023
抄録  高齢化によって認知症をもつ人や介護が必要な人の絶対数や割合が増加している.それに伴い,認知症をもつ人や要介護者など,当事者本人の経験や認識に着目した研究(「本人研究」)の重要性が増している.しかし,方法論的な難しさがボトルネックとなり,その数はいまだ少ない状況にある.今回提示したボトルネックが解消され,多様な「本人研究」が行われていくことを期待したい.
キーワード 本人研究,認知症,要介護

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