書 評
更新日 2019/11/12
- 住民主体の楽しい「通いの場」づくり;「地域づくりによる介護予防」進め方ガイド
- 近藤克則編 定価:1,800円+税
- 発行:日本看護協会出版会 2019年3月31日
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日本老年学的評価研究(JAGES)に参加する市町村職員と研究者によって記されたこの本は,地域づくりによる介護予防に携わるだれもが活用できる実践方法が,「通いの場」づくりの時期(ステージ)別にわかりやすく述べられ,実践への動機づけと自信を高める内容になっている.
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本著は,導入編「『地域づくりによる介護予防』とは」と,実践編「各プロセスにおける進め方のポイント」から構成され,実践編では,共通認識の形成期→運営主体の形成期→運営・拡大期→評価期の4期ごとの実践の考え方,ポイント,活動方法が紹介されている.随所に,写真,GUIDEがあり,編著者らが強調している「見える化」が本書のなかでも実践されている.
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本書が実践的で役に立つガイドだと感じた点は,多様な関係者への働きかける意義と方法,男性に参加してもらう工夫,安定的な運営のためのルールや名簿作成の留意点,行政の役割や関わり方などであり,実践していると出会う課題に対して,痒い所に手が届くような考え方と解決方法が示されている.
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補章の「地域診断の実践」では「地域マネジメント支援システム(JAGES HEART)」を使った地域診断の手順と6自治体の実践例,付録には,コピー/ダウンロードして使える資料集があり,実践者に嬉しい配慮がされている.
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JAGESにかかわる研究者・実践者が,全国の高齢者の健康格差の是正のために「地域づくりによる介護予防」をいつでもだれでもが実践しやすいように,これまでの研究知見と実践知を本書で提供してくださったことに心より敬意を表し,地域づくりと高齢者の健康を願うすべての人にこの良書をお勧めしたいと思う.
更新日 2019/7/16
- 生涯発達と生涯学習
- 堀薫夫編著 定価:2,800+税
- 発行:ミネルヴァ書房 2018年11月10日
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多くの科学的研究では研究の進展に伴い領域の細分化,取り扱う事象の個別化が進みがちである.このような状況は現代の老年社会科学研究においても変わらない.研究が深化しているという点からは喜ぶべきことかもしれないが,一方で老年学のもっとも重要な特徴である学際性を発揮しにくい状況を生んでいると考えるのは評者だけではないだろう.
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現在自分が行っている研究がその領域における大きな潮流のなかでどのように位置づけられているのかを理解し,研究を行うのはむずかしい.とくに,初学者にとっては,もっともむずかしい作業だといえる.その点,本書は生涯学習の分野が生涯発達研究の枠組のなかでどのような位置づけにあり,個々の領域がどのような関連をもつのかを俯瞰的に理解することができるように構成されている.つまり,生涯学習を理解するための教科書であるというだけでなく,生涯発達という領域を俯瞰することができる教科書なのである.評者は2012年に初版が出たときから老年学を学び始めた学生に本書を読むことを勧めていた.それは,本書が研究を俯瞰する視点を提供している非常によい教科書でもあるからである.今回出版された改訂版を読んで,その考えがさらに強くなった.
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本書は,タイトルが示すとおり,第1部:生涯発達論と第2部:生涯学習論が紹介される2部構成となっている.第1部においては,古今東西の生涯発達に関する理論が紹介されるとともに著者の考えが述べられている.第2部においては,初めに生涯学習の理論が紹介され,それに引き続き実際の学習,教育場面での技法や現場で知っておかなければならない基本的な知識が紹介される.両者が明確に分離されたことで,より読者が俯瞰的な視点をもちやすくなったといえる.本書は初めから最後まで深く読み込むことで,研究の奥深さや楽しさを感じさせてくれる良書である.
更新日 2019/7/16
- 最新老年心理学
- 松田 修編著 定価:2,400円+税
- 発行:ワールドプランニング 2018年7月10日
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本書「最新老年学」は,Aging
Paradox現象に注目し,高齢者の生活場面の適応性のよさと,実際に機能が低下してもポジティブにとらえる心理規制を生活支援に活用することで,豊かな生活が送れることを説いている(第1章).以下に本書の要約を紹介する.
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超高齢社会による社会構造の激変は,孤独死,高齢者虐待,認知症など,高齢社会に負のイメージをもたらした.それらの脱却には,社会活動,社会参加,余暇活動,プロダクティブな活動により,心の健康形成に役立てる必要がある(第11章).
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高齢者の心身機能は衰えるが,残された能力を有効に活用し,維持する手段を知ることで,高齢者の生活の質は向上する.本書では,第2章から第10章,第12章に高齢者の「知能」,「感覚機能」「実行機能」「言語機能」「記憶」「意思決定」さらには「パーソナリティ」に関する最近の研究成果から生まれた新理論を総括し,それらの機能障害に対する具体的な手立てを提案している.
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具体的には,高齢者の優れた能力を引き出す選択的最適化理論の活用,感覚機能低下の対応,実行機能に関連する前頭葉機能の加齢による影響,言語機能の加齢変化を本書で解説し,高齢者の生活支援に役立てる示唆を与えている.種々の記憶機能と加齢との関連を理解することで,記憶低下の予防や補助機能を提言することができる.また,意思決定過程や判断能力のメカニズム,加齢とパーソナリティの質の変化についての知識は,高齢者の行動規範の理解に役立つ.
本書は,最近の老年心理学研究から,新しい老年心理学を提唱している.これらは,将来の老年社会学,老年医学,老年精神学,さらには社会福祉学等の臨床,研究に役立つと確信する.
更新日 2019/7/16
- 認知症のある人のケアプラン作成のポイント;在宅・グループホーム・施設の事例をもとに
- 白澤政和編著 定価:3,800+税
- 発行:ワールドプランニング 2018年6月5日
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本書は,専門職向けの雑誌に2000年から掲載された,認知症のある人のケアプランに関する41事例を再掲し,編著者が解説を加えたものであり,アセスメントから生活ニーズを把握し,ケース目標を設定したうえでケアプランを作成するという,認知症のある人に対するケアプラン作成の視点についても理論的に論じている.また,認知症のある人に対するケアプランの特性として,1)認知症のある人のストレングスを見いだし活用すること,2)認知症の行動と心理症状(BPSD)にチームで対応すること,3)認知症のある人の権利を擁護する視点で支援すること,4)認知症のある人の介護者を支援する視点をもち認知症のある人と介護者の両者を一緒に支えることを示すこと,5)地域がどうかかわるかを示すことの5特性を示している.これらの理論的裏付けと多様な実践事例との呼応が本著の魅力である.
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5特性の4点目で介護者に焦点を当てた点が本著の革新的な部分といえる.介護者の思いを傾聴し,心理社会的支援が必要であり,介護者を支援が必要な対象者としてとらえる視点が不可欠と論じ,具体的に,1.家族介護者の自己実現への支援,2.家族介護者の健康管理の支援,3.利用者と家族介護者の関係調整の3つの視点のもとに家族介護者のニーズをケアプランに含める必要性を指摘している.残念ながら事例のなかで認知症のある人の介護者を支援する視点は,十分に組み込まれていないように思われた.いつか介護者の思いも十分に組み込まれた事例を含む続編がでることを期待したい.いずれにせよ,本著は日本のケアマネジメント実践を知り,さらによい実践を考えるための良書であり,実践者・研究者・学生に薦めたい.
更新日 2018/11/15
- 東アジアの高齢者ケア;国・地域・家族のゆくえ
- 須田木綿子,平岡公一,森川美絵編著 定価:4104円
- 発行:東信堂 2018年5月2日
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本書は,台湾・韓国・日本の高齢者ケアに関する比較分析を行ったわが国初の学術書である.各国について国家レベルの論文が3本,地方自治体レベルの論文が3本,サービス供給組織,家族,地域に関する論文6本の合計12本が収められている.
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まず台湾に関しては,ケア政策の発展過程が示され,台北市・新北市の居宅介護サービス組織が行政の影響を受けつつ事業を展開する様子および低所得高齢者が介護施設に入所する際,営利事業者と非営利事業者との間に不当な競争が生じる実態が示される.
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また,外国人ケアワーカーの垂直的・水平的差別の実態が明らかにされた.
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次に韓国については,長期療養保険の介護サービス供給システムが自治体により異なる実態が示され,サービス提供者の運営主体別の特徴と質向上のための評価方法が明らかにされた.また,認知症管理法に基づき国家認知症総合計画が策定されるなか,介護者家族への支援事業が設けられ,認知症患者の家族休暇制度が創設される過程が示されている.
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日本に関しては,地域包括支援センターの都内における自治体間格差が示され,介護の社会化の内実が変容するなか,家族介護の位置づけと方向性が確認されている.さらに,住民参加型在宅福祉サービスが保険制度前後で変化する過程をPublic-nessの再編という視点から分析されている.
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2つの課題を指摘しておくと,第一は,税方式の台湾と保険方式の日本および韓国を比較分析上どのように扱うのかという財源の違いによって生ずる介護システムの差に関する説明がなかった点である.第二は,台湾には雇用主の家庭で働く住み込み型外国人ケアワーカーが2017年現在約25万人存在しており圧倒的な数である.この存在を比較分析のなかでどのように位置づけるのかという分析枠組み上の問題が残されている.とはいえ,こうした課題はあるものの,本書は東アジア各国の高齢者ケアに関心のある読者にとって必読の書であり続けるだろう.
更新日 2018/11/15
- 高齢者の社会的孤立と地域福祉;計量的アプローチによる測定・評価・予防策
- 斉藤雅茂 著 定価:3,888円
- 発行:明石書店 2018年3月24日
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科学的根拠に基づく医療(Evidence Based
Medicine)の必要性が唱えられて以降,社会科学的調査も疫学の調査法を範に取りながら,健康に限らず,種々の社会変数をアウトカムに設定して大規模調査が行われてきている.本書の意義は,著者が参加した2種類の調査を含む大規模調査のデータによる科学的根拠に基づいて,社会福祉の観点から社会的孤立や孤立死の規定要因が検討され,さらに孤立の予防や軽減に関する実践活動の評価が示されている点にある.
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本書のテーマである高齢者の社会的孤立は,とくに,高齢者の孤独死が世間を騒がせ,孤独のうちでの死なのか,それともひとり暮らし高齢者の突然死なのかが一般国民の間でも議論されるような問題となった.社会的に混乱のみられる話題を改めて科学的に再検討しようとする本書には,研究者としての責任だけでなく清ささえ感じさせられた.
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本書は,第Ⅰ部で,まず,社会的孤立の定義と問題の所在が検討される.社会的孤立の概念的定義とともにさまざまな操作的定義が示されるが,それはつまり標準的な測定法が欠如しているということであり,だからこそ操作的定義を明確にしてから調査に入るという方法が成り立っており,研究のオリジナリティにもなっている.第Ⅱ部では社会的孤立の個人要因および孤立死とセルフネグレクトに関して,システマティックレビューを基に問題設定が行われ,調査データに基づいて検討される.第Ⅲ部でも同様な手続きによって,独居高齢者の見守り活動,孤立予防・軽減を目的とする地域活動,孤立を招きやすい地域環境についての実践の紹介と評価がなされる.巻末の「結論と展望」で本書の成果と今後の展望を概観している部分も読者には役に立つ.多くの社会科学者にお読みいただきたい良書である.
更新日 2018/11/15
- 復興を見つめて;東京都健康長寿医療センター東日本大震災被災者支援プロジェクト5年半の取り組み
- 東京都健康長寿医療センター編 定価:1,620円
- 発行:東京法規出版 2018年3月1日
- 本書は,東京都健康長寿医療センター(以下センター)の事業として,宮城県気仙沼市において組織的かつ継続的に展開された「東日本大震災被災者支援プロジェクト」の活動の記録がまとめられたものである.
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冒頭では地域・在宅や病院で勤務する保健医療福祉専門職が体験した震災後3日間の活動が振り返られている.総勢89人を対象とした大規模な聞き取り調査であるが,震災体験者による生の事象が語られていることにより,読者は震災直後の状況を疑似体験することができるだろう.またこれらの体験を踏まえたうえでの7つの教訓や,看護と介護の課題,そして仮設住宅での生活や福祉の課題が導き出されている.
- なにより注目すべきは,地元の専門職から縦割りや職種の壁を越えた地に足がついた新たな活動が生まれ,「多職種連携という言葉が事実として成立している」と筆者をしていわしめた活動が展開された部分であろう.
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多職種連携への意識変化の一翼を担ったのは,センター研究所のメンバーであった.地域に寄り添い「場を共有し協働して創成する」活動,具体的には地元で主体となる人々とともに地域の力となる活動を一緒に作り上げる取り組みをとおして,バラバラに活動している人々がつながり地元に力をつける下支えをする.そのような支援こそが「震災体験の内側にいるものと外側にいるもの」との多種多様な協働による「与えるだけではない,もっと別の支援」のあり方ではないかと本書は問いかける.
- これらに加えて,災害時の研究者としてのジレンマや,東京都の災害時の地域高齢者支援に関する提言もなされており,本書は災害支援や研究に携わる者にさまざまな示唆を与える良書であるといえる.
更新日 2018/5/30
- イアン・アンドリュー・ジェームズ著,山中克夫監訳 定価2,484円
- 発行:星和書店 2016年3月14日
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本書は,臨床心理士であり,イギリスのニューキャッスル・チャレンジング行動臨床チーム(NCBT)代表のイアン・アンドリュー・ジェームズ氏による,認知症の人に特化した認知行動療法に関する入門書の翻訳である.
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全8章の構成で,第1章からは第5章ではチャレンジング行動の定義に続き,その特徴や分類体系,マネジメント,チャレンジング行動の原因やアセスメント,薬物治療や心理的アプローチのほか,一連のアセスメントや治療のための概念モデルについての解説,第6章からはNCBTにおける臨床モデルや事例研究,サービスの開発と提供についての解説である.
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認知症の人にみられるさまざまな行動は認知症による症状として一括りにされがちであったが,実はそれは,本人なりの困り感やつらさを何とか伝えよう,解決しようとするあらわれと理解される「チャレンジング行動」は,ごく普通の,われわれにもみられるもので,同じチャレンジング行動であっても,許容されるかどうかは周囲の人により異なり,さらには,チャレンジング行動には本人の何らかの欲求が反映されていることが多く,個人の心理的,社会的な特徴と脳の生化学的変化や身体的変化等の多様な影響を考慮すべきであるという.
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本書は,臨床心理の専門家が介護現場でのコンサルテーションを行う手引きとして書かれ,図表や事例を随所に盛り込まれ,実践につながるように工夫されている.また,原書でむずかしい専門用語になりすぎないよう留意されているのを受けて,翻訳においても読者へのきめ細かな配慮がなされており,解説されている状態や場面を具体的にイメージしながら読み進めることができ,認知症ケアについて学ぶためのお薦めの一冊である.
更新日 2018/5/30
- 片桐恵子著 定価3,024円
- 発行:東京大学出版会 2017年8月12日
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本書は,社会老年学の分野に大きなインパクトを与える高齢者のProductivityの概念と意義について,自他の実証データを踏まえて論述した力作である.あらゆる分野の方に一読を勧めたい.
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著者は,前著『退職シニアと社会参加』で提唱した有償労働を含まない社会参加に生産的活動と市民参加活動の2つを加えた新しい概念を提唱している.生産的活動には有償労働,ボランティア活動,家庭内労働,介護などが含まれる.市民参加活動には,社会の一員として果たすべき活動,ボランティア活動や政治活動などが含まれる.
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本書は,これらの諸活動は,それを実践している高齢者自身の主観的幸福感を高めることを自他のデータをベースに示している.すなわち孤独感を和らげ,自尊感情を高め,生活満足度を向上させることである.さらに,これらの諸活動が高齢者のAdivやIAdiv,また認知能力を高めることも内外のデータを紹介しつつ示している.
- 市民参加活動として生涯学習もある.この活動の高齢者の心身のWell-beingに与えるよい影響についても内外の事例を挙げて論及している.
- 本書は,高齢者のProductivityの概念とデータを包括的に示しているが,ゆえに,この分野の以下の課題を言外に示唆する結果となっている.
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これまでの研究は,高齢者のProductivityの,それを実践している高齢者自身のWell-beingに与える効果について焦点が当てられてきた.今後は高齢者のProductivityの社会における必要性と有用性を実証する研究も行っていく必要がある.
更新日 2018/5/30
- 清水哲郎,会田薫子編 定価2,808円
- 発行:東京大学出版会 2017年8月25日
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死生学がそもそも多様な学問領域にまたがるという学際性をもつがゆえに,本書の内容は多岐にわたる.死に関係する社会・文化的経緯も含めた死生学の成り立ちと現状,そして今後の在り方といった,学問としての「死生学」そのものを俯瞰した概説に始まり,その後医療・介護の臨床現場に焦点づけて,人生の最終段階に臨む患者の治療とケアの選択に関する考え方・システムの変遷,および現在注目されている医療・ケアチームと患者本人・家族等間での情報共有-合意モデルに基づく意思決定プロセスに関して解説がなされる.この治療とケアの問題に関して各章で,哲学,法学,宗教学,心理学など多様な切り口で踏み込んでいるのが本書の特色ということになろう.
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本書は,東京大学において毎年開催されている「医療・介護従事者のための死生学セミナー」の主要な講師陣により,セミナーでの講義を軸として執筆されたものである.ホームページ1)によると,このセミナーは「医療や介護の現場で,ケアにあたる方たちが,死生に関わる実践的な知と,それをバックアップする教養を身に付け,患者・利用者やその家族に,より人間的なケアを提供できるようになることを目指すもの」である.しかし本書には,ケアを受ける患者にとっても,よりよい人生の最後の過ごし方/最期の迎え方の選択肢を広げ得る,有益な示唆が多分に盛り込まれている.また現時点で死生のケアを必要とする状態にはなくとも,通常のケアを受ける際に,あるいは死が不可避である以上,いずれ役立つ知識として記憶に留めておくことが望ましいのではないだろうか.
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文献
- 1)東京大学大学院人文社会系研究科 死生学・応用倫理センター
上廣死生学・応用倫理講座:医療・介護従事者のための死生学セミナー(http://www.l.u-tokyo.ac.jp/divs/ja/seminar.html,
2018.2.7)(2018).
更新日 2018/2/6
- 小池高史著 定価2,052円
- 発行:書肆クラルテ 2017年5月11日
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「団地族」と呼ばれる人びとがいた.第2次世界大戦後に建設された大規模集合住宅(団地)の住民である.彼(女)らの多くは中流のサラリーマンで,新しい生活様式と近代的な意識をもち,わずらわしい近所付き合いから解放されている.食寝の分離をはじめとして今日では当たり前になった都市的生活様式の原点は団地族にあると言ってよい.半世紀後の今日,団地はまた人びとの関心を集めている.しかしそれは,あこがれの住まいと新しい生活様式をもつ住民についての関心ではない.高齢化と社会的孤立,買い物の困難,そして孤立死などの問題や課題が集積する地域としての団地と,そこに住む高齢者への関心である.
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本書は新進気鋭の社会老年学者が著したコンパクトな解説書である.団地の歴史と団地に暮らす高齢者(「団地高齢者」)の描写から始めて,団地高齢者と団地以外に暮らす高齢者の比較,団地高齢者の人間関係と「高齢者の居場所」づくり,団地自治会,団地と大学の協働などが取り上げられている.語り口は平易でわかりやすく,団地と団地高齢者に関心をもつ人が最初に手にする書物として好適である.より精緻な分析の結果を知りたいという読者は,本書に続いてより専門的な書物や学術論文に進むのがよいであろう.また,団地高齢者の肉声や日々の暮らしをのぞき見たいという人は,本書と並行してルポなどを読むとよいであろう.
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本書が扱っているのは,基本的に「いま」の団地高齢者である.かつての団地族の,その後の多様なライフコースを明らかにすることは,残された重要な研究課題である.著者の今後の取り組みに大いに期待したいところである.
更新日 2018/2/6
- NPO法人大阪府高齢者大学校編著 定価1,944円
- 発行:ミネルヴァ書房 2017年4月10日
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本書は,大阪高齢者大学が設立10周年を記念して出版した書籍である.しかし,単なる彼らの活動の資料でもないし,思い出の記録ではない.本書は,高齢化が急速に生じ,さらに進行し続ける世界的に稀有なわが国において,高齢者(社会的に保護される高齢者ではなく,成熟した人間)がどのように生きていけばよいのかといった道しるべともなる書籍である.ご存知のように大阪では,いわゆる行政によって運営されてきた高齢者大学は,橋本府知事によって歴史に幕を閉じることになった.その後,高齢者自身による,高齢者自身の高齢者のための組織として蘇り現在に至っている.本書ではその顛末と,今後の課題を当事者の視点,そして研究者の視点から紹介されている.この枠組みは,高齢者大学というひとつの組織の事例として閉じたものではなく,長寿社会日本そのものと理解するうえで欠かせない.
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もし,本書が高齢者大学の解散から再生までの活動記録のみで構成されていたら,本書はプロジェクトXのようなメンバーの成功譚として完結していたかもしれない.しかし,本書は,完結を迎えることがない高齢者大学の運営という現実を通して読者に“高齢期とはなにか”という老年学の根源的な問題を問いかける.具体的には,健康寿命の延伸と共に達成が可能となった現代の超高齢社会は,高齢期がプロダクティブであることを現実化した.しかし,同時に高齢期のプロダクティブな活力を個人の快楽的な幸福に向けるのか,社会全体の歓びとしての幸福に向けるのか,両者のバランスをどのように取ればよいのか,という新たな問題を生み出した.本書は,長寿社会における自分自身の生き方も考える機会を提供する貴重な書だといえる.
更新日 2018/2/6
- 社会的ネットワークと幸福感;計量社会学でみる人間関係
- 原田 謙 著 定価3,780円
- 発行:勁草書房 2017年1月17日
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本書の第Ⅰ部(理論編)では,ネットワークに関する基礎概念の整理(第1章)と,今日の代表的なネットワーク理論の紹介(第2章)がなされている.
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第Ⅱ部から第Ⅳ部(実践編)では,いくつかの大規模調査の結果が考察されている.第Ⅱ部は,「30自治体調査」の結果に基づいて,ネットワークの質量に地域差や階層差があること(第3章),また,階層的地位(学歴と所得)がネットワークを広域化する資源として重要であること(第4章),などを論じている.
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第Ⅲ部も,同じく「30自治体調査」の結果に基づいて,サポートがメンタルヘルスを向上させる効果よりも,否定的相互作用がこれを低下させる効果のほうが大きいこと(第5章),また,社会的凝集性が居住満足度を向上させる一方で,地域の荒廃度や犯罪被害リスクの認知が居住満足度を低下させる要因であること(第6章),などを論じている.
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第Ⅳ部は,中年未婚者と後期高齢者を対象とした調査データの分析結果に基づいて,中年未婚者にとっては,とくに恋人の存在が孤独感や抑うつ傾向の軽減ないし主観的健康感の向上に有用であること(第7章),また,高齢男性には配偶者の存在が,高齢女性には子の存在が,それぞれ抑うつ傾向の軽減や生活満足度の向上をもたらすこと(第8章),などを論じている.
このように,本書は,「人間関係が何により規定され,個人にどのような影響をもたらすのか」という問いに,都市社会学と社会老年学の立場から答えようとする試みである.
更新日 2017/10/31
- 超高齢社会を生きる;老いに寄り添う心理学
- 日本心理学会監修,長田久雄,箱田裕司編著 定価2,052円
- 発行:誠信書房 2016年12月10日
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本書は,日本心理学会が「面白くてためになる心理学叢書シリーズ」として監修した心理学叢書のなかの一書である.
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第Ⅰ部,第1章は,健康長寿にとって,身体活動・運動を無理なく続けるための心理的支援.第2章は,食生活と心理的な問題.第3章は,百寿者調査から導き出された「サクセスフルエイジング」についての新しい視点.
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第Ⅱ部,第4章は,高齢者の「モノの使いやすさ」を高めるため,「良いデザイン」と「コミュニティの力」の必要性.第5章は,「閉じこもり高齢者」の予防と支援のために,ライフレビューの活用が紹介.第6章は,高齢者の「うつ病」の一次予防は「生活習慣」の改善,二次予防は家族・友人によるケアの重要性,三次予防では,自殺予防を指摘.
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第Ⅲ部,第7章は,「認知症」の病気について,また,認知症者の生活を支える家族・介護者の心構え.第8章は,認知症に対する心理学からの貢献として,アセスメント面,支える家族への心理療法,さらに,権利擁護への心理的支援の3点を指摘.第9章は,アルツハイマー型認知症の発症に影響する要因として,運動・食事・知的活動・社会的ネットワークについて.
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以上,本書は,高齢者の生活の質を高めるための重要な課題に関して,第一線で研究や支援活動を行っている専門家の執筆によるものなので,超高齢社会を生きる人について学び,実践している人にとって貴重な情報を与えてくれる.
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しかし,超高齢社会の到来は,「量」だけでなく「質」的な変化が起きている.にもかかわらず,本書の章立ては,高齢者を弱者ととらえ,支えられる対象としての高齢者観に基づいている.心理学は高齢者を狭い視点からしか見据えていないのか,(そうではないのに!)という不満が残った.
更新日 2017/10/31
- 就労支援で高齢者の社会的孤立を防ぐ;社会参加の促進とQOLの向上
- 藤原佳典,南 潮編著 定価4,860円
- 発行:ミネルヴァ書房 2016年11月10日
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本書は高齢者就労を経済活動という側面ではなく社会的側面に着目し,豊富なデータと事例を基に,地域包括ケア時代の新たな支援体制の在り方を検討した意欲的な一冊といえる.
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まず第Ⅰ部では,高齢者就労が心身の健康維持に重要で,孤立への懸念を払しょくさせる選択肢として有用であることを示している(1章).さらに,「生きがい就業」や「第三の働き方」という経済的動機ではない高齢者就労の在り方を中心にした労働社会の変容(2章),増加しつつある派遣労働における高齢者就労の実態(3章),高齢者の労働能力(4章)についてデータを基に丁寧に記述している.次に第Ⅱ部では,シルバー人材センター(5章),社会福祉協議会(6章),高齢者協同組合(7章),東京しごと財団(8章)について,具体的な取り組みや課題を紹介している.最後に第Ⅲ部では,就業支援体制を考える視点として,多様な事業主体による重層的な支援(9章),就労支援に当たる職員に求められる孤立予防のゲートキーパーとしての役割(10章),高齢者を雇用するメリットを理解したうえでの経営者のマネジメント(11章),地域包括ケアシステムとしての高齢者就労(12章)の在り方を読者に投げかけている.
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とくに興味深く感じられるのは,就労の機会を求める高齢者には制度の狭間に在る高齢者が存在し,求職活動そのものが社会参加になっている実態を調査から明らかにしたことである.本書は,高齢者を雇用する企業,就労のコーディネートを行う団体から,自治体の福祉系部署や地域団体,地域包括ケアセンターの職員までに,多くのヒントを与えてくれるだろう.
更新日 2017/5/31
- ケアと健康;社会・地域・病い
- 近藤克則編著 定価3,780円
- 発行:ミネルヴァ書房 2016年9月10日
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本書は,ソーシャル・キャピタルを鍵概念として,社会疫学の成果をふまえてケアと健康の関係性を議論した一冊である.ケアという営みあるいは概念を軸として「人間についての探究」と「社会に関する構想」を総合する試みである『講座ケア:新たな人間-社会像に向けて(全4巻)』の4巻目を成す.全体の構成は,第Ⅰ部「健康に影響する社会的・環境的・遺伝的要因」,第Ⅱ部「ソーシャル・キャピタルと健康」,第Ⅲ部「社会的レベルのケアに関わる要因と政策」,第Ⅳ部「ケアにおける“多対多モデル”」に整理されている.
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本書が今日の学会にとって有意義である理由のひとつは,ソーシャル・キャピタルという概念の理論的/政策的意義が的確に整理されている点である.ソーシャル・キャピタルについては,本学会誌でも特集を組んだが(37巻4号),第Ⅱ部でソーシャル・キャピタルと健康に関する疫学研究が簡潔にレビューされ,秋田県の自殺対策や,愛知県武豊町の地域サロン事業などの応用研究が具体的に提示されている.
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もうひとつは,本書が狭義のケア(個別臨床の介護/看護)だけではなく,広義のケア(さまざまな関係性や制度/システムまで)を重視する立場,そして遺伝的要因や生活習慣といった個人的要因だけでなく,個人を取り巻く社会的・経済的な環境要因を健康の重要な決定要因として重視する立場をとっている点である.本来,学際的な議論の場である「老年社会科学」会では,本書が強調する社会的・経済的な環境要因に焦点を当てた研究がますます重要になっていくだろう.会員諸氏に,新しい健康観の認識枠組(パラダイム)という知的刺激を提供してくれるお薦めの一冊である.
更新日 2017/5/30
- 荻窪家族プロジェクト物語;住む人,使う人,地域の人みんなでつくり多世代で暮らす新たな住まい方の提案
- 荻窪家族プロジェクト編著,瑠璃川正子,澤岡詩野,連健夫ほか 定価1,944円
- 発行:萬書房,2016年5月10日
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本書は,高齢になったときの理想の住まい方,すなわち,『さまざまな世代の他人が心地いい距離感をもって助け合って暮らす住宅と地域交流により力を得ていく場所』を求めて,そのことに賛同する専門家や仲間とワークショップなどの手法を用いて,理想とする住まいの建設と活用の仕方について,そのプロセスも含めてまとめたものである.既存の高齢者向け住宅とは異なる,住民自らがつくりだす新たな住まいと住まい方にヒントを与えてくれる書である.
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第二章では住居のハード面から,第三章では利用の仕方のソフト面からの工夫が列挙されているが,いずれも,住まいのオーナー,専門家などのコアメンバーに加えて入居者や地域の人びとをも巻き込んだ「参加のデザイン」により,理想の住まいを追い求めようとしていることが「荻窪家族プロジェクト」の特徴といえよう.また,本プロジェクトのもう一つの重要なキーワードとして「第三の居場所」を挙げることができる.「家庭」「職場や学校」という生活上必要不可欠な居場所に続く,潤いを与える場としての第三の居場所を持つことが大切であるという.多世代の多様なつながり,出番や役割を見いだせる居場所づくりを目指しているのである.
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そして最後の章である第10章「結論」では,本書で紹介されている知見のまとめ,今後の課題,政策的インプリケーションが記されている.長年にわたり社会的ネットワーク研究を積み上げてこられた著者の考察は,非常に示唆に富むものである.とくに,個人レベルの議論に終始しがちな社会関係に関する研究だが,マクロなレベルの政策にどう提言できるかを考えることも重要である.著者が言う「サポートの社会化」は,現在の地域包括ケアにおいてもっと必要な視点だと感じる.
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そのほかに,本書を読み解くためのキーワードとして,第四章で「多世代」「シェア」「地域開放」「ワークショップ」等を取り上げ,解説している.これらキーワードの意味をまず理解したうえで,各章を読み進めるのもよいかもしれない.第三章では,「百人力サロン」の取り組みが紹介されている.その試みは,各地で実践されている○○サロンの企画に悩んでおられる方々には参考になると思われる.
いずれにしても「荻窪家族プロジェクト」は,「現在進行形」をモットーにしており,今後の展開が楽しみである.
更新日 2017/5/30
- 認知症ケアマネジメント;認知症の行動・心理症状に対処する技法
- 加瀬裕子著 定価2,592円
- 発行:ワールドプランニング 2016年7月15日発行
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本書は7つの章から構成されている.第1章「ケアマネジメントの概念と介護保険制度におけるケアマネジメント」では,文献から歴史的な経緯をひも解き,欧米におけるケアマネジメントの起こりと機能を,とくに在宅ケアに軸足をおきながら整理している.また,日本の介護保険制度においてケアマネジメントの現状にも触れられている.第2章「認知症ケアマネジメントのガイドライン」ではエビデンスに基づく文献検討から,『認知症ケアマネジメントガイドライン』『認知症アセスメントについてのガイドライン』『認知症ケアプランのアセスメントについてのガイドライン』『家族・介護者のアセスメントと支援についてのガイドライン』を示した.続く第3章「認知症ケアマネジメントの実際」では,介護保険制度下での実際の援助事例から,認知症ケアマネジメントの課題を実証的に探索している.
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第4~6章は一転して,介護保険事業所に対象とした質問紙調査の検討結果を述べている.第4章「認知症ケアにおける効果的なアプローチの構造」では,BPSDが改善した204例の質的検討から,“心理的ケア-身体的ケア”軸と,“環境への働きかけ-本人への働きかけ”軸とで構成された介入・対応モデルを導いた.また,第5章「認知症の行動・心理症状と効果的な介入・対応の関連(量的分析1)」では介護施設でのBPSD改善例130事例,第6章「居宅介護における認知症の行動・心理症状への対応(量的分析2)」では在宅でのBPSD改善例72事例に対してコレスポンデント分析を行い,効果的な介入行動を明らかにした.そして7章の「総括」へと続く.
圧巻は章ごとにリストされた文献の豊富さである.ケアマネジメントや認知症ケアに携わる実践者から研究者まで,幅広く活用できる一冊である.
更新日 2017/5/30
- よくわかる高齢者心理学
- 佐藤眞一,権藤恭之編著 定価2,700円
- 発行:ミネルヴァ書房,2016年6月10日
- 本書は,ミネルヴァ書房『やわらかアカデミズム・<わかる>シリーズ』の一書である.初学者にもわかりやすく,高齢者心理学の重要なトピックスを99選定し,各トピックを見開き2頁で解説している.
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高齢者心理学は,心理的側面のエイジング・プロセス,メカニズムの解明を目指すとともに,超高齢社会や老いが内包する心理的諸問題の解決に取り組んでいる.本書の第一の特徴は,心理学的側面の加齢変化にとどまらず,生物学的側面,社会学的側面の加齢変化も解説し,それらの加齢変化が人の心理的側面に与える影響についても論じている点である.
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第二に,100近いトピックスを扱う本シリーズの特徴を活かして,本書は認知情報処理と情動・感情の加齢変化について,多様な視点から解説している.認知情報処理に関しては,認知加齢に関する諸理論,注意,記憶と学習,高次の情報処理,さらにメタ記憶,認知の予備力などを取り上げ,丁寧に解説している.また情動・感情については,高齢者の心を理解するうえで重要なトピックスであるパーソナリティ,感情,老の自覚などに関する研究が紹介されている.人と人のつながり,すなわち社会関係をはじめとして,介護や現代社会の問題まで,広く「社会」に関するトピックスを取り上げている点も本書の特徴である.
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本書は高齢者の心理に関心のある初学者にとって,高齢者心理学の内容を知るための教科書や参考書として最適な書であるとともに,卒業研究や修士論文に取り組む学生が研究テーマを選定し,関連する概念を学ぶのに適した良書である.また科学的知識として「老い」を知り,自らが「老いを生きる」ことの意味を問うことに対する,多くのヒントを与えてくれる.
更新日 2016/11/18
- 高齢社会のアクションリサーチ;新たなコミュニティ創りをめざして
- 秋山弘子編著 定価3,024円
- 発行:東京大学出版会 2015年9月26日
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待望の書物が公刊された.急速な人口高齢化と,それに伴う課題の増加にこたえて,全国の自治体でさまざまな取り組みが進められている.研究者は,多くの自治体の取り組みに顧問的な立場で加わっているが,なかには地域での取り組みを自分の研究として位置づけ,それを科学的な営為として構築しようとしている人がいる.また,大学院生や若手研究者のなかには,地域での取り組みを学位請求論文にまとめ,あるいは雑誌論文や学会発表として世に問いたいと思っている人がいる.そうした人びとにとって,本書は格好の手引きとなるであろう.
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本書は国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)社会技術開発センター(RISTEX)の研究開発プロジェクトの経験と成果をもとにまとめられた入門書である.各章では,アクションリサーチのそれぞれのフェーズで行うべきこと,守るべきポイントが整理され,豊富な実践例をもとに記述されている.読者は,各章を順に読み進んでいくことを通して,各フェーズで求められる知識と技術を知り,身につけていくことができるであろう.
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本書の目的は,「コミュニティにおけるアクションリサーチを科学的手法として確立する」ことであるとされている.これはまさに現在求められていることであるが,残念ながら,この点では道半ばであるとの感を禁じえない.日本の社会老年学においては,量的研究が隆盛ななかで質的研究の方法論的洗練が進み,長い時間をかけて受け入れられるようになった歴史がある.本書が扱うアクションリサーチにも同様のプロセスが必要なのかもしれない.著者たち,そして現在アクションリサーチに携わっている研究者たちには,先駆者また開拓者としての貢献を期待したい.
更新日 2016/11/18
- 認知症の人を知る;認知症の人はなにを思い,どのような行動を取るのか
- 加藤伸司著 定価1,080円
- 発行:ワールドプランニング 2014年2月25日
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著者は,1982年の聖マリアンナ医科大学病院での臨床活動を皮切りに,認知症ケアの第一線で,認知症のある人の心理的理解をベースにし,研究活動を行ってきており,本書は一般の人に限らず専門職の人にとっても,認知症のある人の立場にたって心理を踏まえた支援を平易な表現で説明している.
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前半の章では,多くの一般の人にとって,理解しにくい老化現象と認知症の違い,心理的特徴として,「慢性的な不快感」「持続する不安感」「自発性低下やうつ状態」「混乱状態」など具体的に例示を,専門的な研究成果を背景にしながら,その人の「気持ち」に通じる対応の説明へとつなげている.
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認知症の行動・心理症状は,いわゆる問題対処型のケアにつながる最大の要因である.中核症状である認知機能障害がどのような心理状態をもたらしているのか,それこそが原因となり,徘徊などの行動・心理症状につながっているものといえる.その理解こそが,専門職のケアにおいても基本となる視点であり,本書のなかで繰り返し強調されている記述でもある.
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また第5章では,「悪性の社会心理」としてTomKitwoodの提唱するケア環境の負の側面を説明している.ここでは,日常的な事例を付け加え,とくに専門職のケアに,自らの対応を検証するための手がかりを提示している.著者が指摘しているように,「だます」ということは,「認知症の人の世界に入る」という視点で,たとえ事実でないことも本人にあわせて説明することが,日常的にケアの現場で行われやすい現状にとって重要な警鐘となるものといえる.本書では,認知症におけるケアを,心理的理解をべースに考える視点をわかりやすく説明している一般書でもあり専門書でもある.
更新日 2016/5/23
- 在宅ケア学第6巻 エンド・オブ・ライフと在宅ケア
- 日本在宅ケア学会編 定価:2,592円
- 発行:ワールドプランニング 2015年9月5日発行
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日本在宅ケア学会の設立20周年を記念して,『在宅ケア学 全6巻』が出版された.本書は,その第6巻であり,「エンド・オブ・ライフケア」研究におけるわが国の第一人者である長江弘子氏(東京女子医科大学看護学部教授)によって編集された.
日本在宅ケア学会が編集する『在宅ケア学』の一冊に位置づけられた「エンド・オブ・ライフと在宅ケア」は,高齢社会が今後も進行するわが国の地域包括ケアの指針ともなる意義深い書といえる.
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本書は,第1部基本編と,第2部実践編からなる.第1部は,エンド・オブ・ライフを必要とする社会的背景,エンド・オブ・ライフの概念,倫理的課題,チームアプローチ,ケアの質と人材育成などが取り上げられている.
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エンド・オブ・ライフケアについて,従来のターミナルケア,終末期ケア,緩和ケアなどの用語との関係が整理されており,エンド・オブ・ライフケアは,看取りだけではない最善の生を生き切るための,治療と療養の場の選択であり,合意形成,意思決定のプロセス,チームでかかわる組織的なアプローチが重要であることについて理解が促される.
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第2部実践編では,エンド・オブ・ライフケアが必要となる多様な疾病別の支援が取り上げられており,がん,慢性呼吸不全,脳卒中後遺症,神経難病などの患者への実践的な対応が役に立つ.それらに加え,高齢者の終末期において特別の配慮を要する認知症やひとり暮らしの方への支援のあり方も考えさせられる構成となっている.
- エンド・オブ・ライフという切り口からケアを見直すことは,すべての保健医療福祉関係者にとって重要であり,手に取ってほしい一冊である.
更新日 2016/5/23
- 後半生のこころの事典
- 佐藤眞一著 定価:1,728円
- 発行:CCCメディアハウス 2015年4月23日発行
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人の生涯にわたる発達のプロセスを心理社会的視点から論じた理論家は多い.たとえば,エリクソン,E.H,ハヴィガーストR.J,ユングC.G,ペックR.C,レビンソンD.J.などの理論家達は,ライフサイクル(人生周期)理論に基づいて,人生の後半生を含む生涯発達について論じている.
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本書では,ホームズとレイ(Holmes & Rahe,1967)が,Journal of Stress
という学術誌において概念化した「ライフイベント」という用語をキーワードにして,人生の後半生の時期に生じる生活上の変化や適応の在り方について,幾多の事例をもとにわかりやすく解説されている.
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本書は,人生の後半生を60代,70代,80代,90代に分けて,各年代に大方の人に遭遇する個別のライフイベントを示して,その解決に奔走する個人の在り方について,具体的な事例を挙げて解説されている.老い行く過程で生じるライフイベントとは,往々にして重く,陰湿で,できれば触れたくない回避的イベントとしてとられやすい.とくに今から老いを迎える世代にとっては,できるだけ先延ばしにしておきたいストレッサーとみなされやすい.著者の解説にもあるように,老いの生活で遭遇する生活出来事は,悪いイベントのみではなく,良いイベントもある.
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いずれにしても,遭遇したイベントを当人が,どのように受け止め,意味づけるかにかかわってくる.性格,体力,健康,興味・関心など同年代の人達のなかでも,個々の生活事象に対する受け止め方や対処の仕方は異なる.その意味で,ライフイベントは,大まかな人生のメルクマールということになろう.祖父母や老いつつある親世代とふれ合う機会が希少になりつつある現代の日本において,本書を読み進めることによって,迎えつつある老いの時代を疑似体験し,それを迎え撃つ覚悟もつくる好機になると思われる.
更新日 2015/6/15
- 高齢者とのコミュニケーション;利用者とのかかわりを自らの力に変えていく
- 野村豊子著 定価:2,160円
- 発行:中央法規出版 2014年7月20日発行
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本書は高齢者とのコミュニケーションについて,専門職向けに書かれたものである.「コミュニケーションについて学ぶ」「自分自身について理解する」「高齢者とのかかわりについて考える」の3つの柱が立てられている.
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第一章「コミュニケーションについて学ぶ」では,コミュニケーションとはなにかを述べ,介護におけるコミュニケ-ション,コミュニケーションの構成要素等に言及されている.第二章「自分自身について理解する」では,自分の傾向,適切な自己開示,感情,関心,組織におけるストレスや葛藤等にふれられている.第三章「高齢者とのかかわりを考える」では,高齢者の理解,信頼関係の形成,高齢者に学ぶ姿勢,高齢者の閉じこもり,高齢者と死,回想やグループでのコミュニケーション,家族等の課題を取り上げている.
「閉じこもっているといわれる高齢者のなかには,当然,静かに暮らすことや一人の時間を楽しんでいる人もいます」高齢者が「今伝えている思いには,ためらいや恥ずかしさもあることを理解することが大切です」などの言葉に深く頷く.
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本書は演習やコラムによって,読者が自分をふりかえる機会が随所に盛り込まれている.私はいつのまにか,これまで出会った高齢者やその家族の顔を思い浮かべていた.交わした言葉,励まされた瞬間,受けとった叱責,だれにともなくつぶやかれた独白,喜びとも悲しみとも寂しさともいえない微妙な表情,それが雲のように移ろうさまを想った.それはある種の苦さを含みながら,著者の懐の広さと深さに支えられてだろうか,温かく心地よい体験であった.高齢者とのコミュニケーションを学び,はたまた高齢者と自分の人生を考えるよき契機となる.
更新日 2015/6/15
- 原子力災害の公衆衛生;福島からの発信
- 安村誠司著 定価:5,400円
- 発行:南山堂 2014年1月20日発行
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本書は,本学会理事長の安村誠司氏(福島県立医科大学教授)が編者となり,東日本大震災の際の原子力災害への公衆衛生的対応をテーマとした重要かつタイムリーな書籍である.
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第一に,大震災・原子力災害の経験については,今後,将来に向けてさまざまな形で語り継ぐ必要がある.今回は発生3年後という,ある程度整理の可能となった時点での,とくに自治体レベルの対応の記録として資料的価値がきわめて高い.
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第二に,被災者の心身の健康問題は慢性化しており,健康問題をもった個人を対象にする医療・福祉サービス提供もさることながら,集団(地域社会全体)にアプローチする公衆衛生の重要性はますます高まっているように思われた.
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第三に,高齢者,障害者などの災害弱者は,①自力で避難行動が困難,②避難のための移動中における健康リスクが高い,③社会経済的要因により避難行動以外にも一般に環境への適応力が低い,などの問題を抱えており,種々の災害時における医療・福祉サービスの事業継続計画(BCP)を整備する必要がある.
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第四に,災害に対する備え(preparedness)は国,各自治体,関係諸団体,個人など,いろいろなレベルで行われる必要がある.各レベルが協調して動くことは当然のことだが,それぞれに対応を準備していないと,いざというときに指示待ちでは十分な対応ができない.
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記録としての価値という観点からすると,本書の3章にある各市町村からの報告はとくに貴重と思われた.将来のため,多忙のなかで執筆していただいた関係者に深く敬意を表したい.今回はフォーマットを決めて執筆されたようだが,限られた紙幅のなかでは語り尽くせなかったことも多々あったのではないかと想像する.今後も,時系列に沿って,行った活動とその問題点をぜひ語り継いでいただきたいと願うものである.
更新日 2014/11/21
- 高齢者保健福祉マニュアル
- 安村誠司,甲斐一郎編 定価3,780円
- 発行:南山堂 2013年6月12日発行
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2013年8月の社会保障制度改革国民会議報告書は「病院完結型」から「地域完結型」への医療の転換の重要性を謳っている.保健・医療・福祉の統合の概念が提唱されて四半世紀以上が経過したが,現在その枠組みづくりと実践ならびに評価ツールの整備が喫緊の課題となっている.
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このような状況のなかで本書が上梓されたことには大きな意義がある.これまでのこの種のマニュアルは,保健・医療・福祉(介護を含む)の分野別に出されており,統合的なプランを作成するうえで支障となっていた.本書は「序」で述べられているように,高齢者の保健・医療・福祉などに携わる専門職や,これから学んでいく学生にとって必要な分野に関するマニュアルを網羅的に紹介,解説している.家庭で高齢者とともに生活している一般市民を含め,社会のあらゆるセクターの方々に座右の書として活用していただきたい良書である.
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しかし,本書はいわば,良質な政府刊行物としての役割を果たすが,それ以上のものではない.本書の発刊後巻き起こっている特定健康診査の基準を巡る論争などに一定の見識を示し得るような思想的な深みがベースにあるわけではない.
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老年学へのもう一歩深い理解も欲しい.主観的幸福感は高齢者のQOLのもっとも重要な構成要素である.しかし,うつ尺度をその測定尺度として位置づけておらず,PGCモラールスケールやLSIKの具体的な紹介もない.
- 1980年に発表された国際障害分類のimpairmentsやLawtonの生活機能モデルのeffectanceの訳語が不適当なのは,老年学の概念への認識不足にも一部起因するであろう.
更新日 2014/05/29
- 成人学習者とは何か;見過ごされてきた人たち
- マルカム・ノールズ著,堀薫夫,三輪建二監訳 定価:3,780円
- 発行:鳳書房,2013年9月26日発行
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本書は,アメリカで成人教育関連の著書を多く著しているマルカム・ノールズのThe Adult Learner :A Neglected
Species (4th.ed),
1990をわが国で成人教育・教育老年学の分野で精力的に研究を行っている堀 薫夫・三輪建二の両者が監訳を行った労作である.
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本書の構成は5章からなる本論と13個の付録から成り立っている.本論の第1章は,「学習理論の世界の探求」,第2章は,「学習理論について」の記述である.彼は,学習を機械論的な学習と生活体系モデルに分けているが,前者はS-Rの連合モデル,後者は認知モデルで従来から心理学の分野で説明されていたものである.
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第3章は,「成人学習の一つの理論:アンドラゴジーについて」である.アンドラゴジーは多くの社会科学からの貢献,とくに人間主義的な心理学といわれる学問の影響を受けて生徒のニーズを中心としたカリキュラムの展開を目指しているという.
- 第4章では,教授の諸理論が述べられる.教授理論は学習理論と密接に結びついているので,第2章で述べられた学習理論と対応させながら展開されている.
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第5章では,学習理論と教授理論の人的能力開発への適用について述べられる.適切な教授モデルは学習課題の複雑さと個人の学習能力レベルの関係で決まること.たとえば,学ぶ内容が単純で学習者の学習能力が高くない場合,行動主義的モデルが,学習内容が中程度に複雑な場合は認知学習理論が,学習内容が高度に複雑で,学習能力が高い場合は人間主義的な理論が適しているという.
- 付録は,すべて同じ形式ではないが,彼の実践記録というべきものが含まれており,彼の理論の落としどころがみえて興味深い内容であった.
更新日 2014/05/29
- シリーズ福祉社会学・第4巻
親密性の福祉社会学;ケアが織りなす関係
- 庄司洋子編 定価:3,780円
- 発行:東京大学出版会,2013年8月28日
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本書は「シリーズ福祉社会学(全4巻)」の第4巻目であり,第1章「ケアの社会学」,第Ⅰ部「現代家族の子育てと支援」,第Ⅱ部「介護・介助・看護―家族の意味と限界」,第Ⅲ部「家族ケアと専門職ケア」の3部構成で,高齢者介護だけでなく,子育て,障害者ケア,原発避難者への支援にも配慮している.
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第1章では,「ケアをする側」と「ケアをされる側」の相互作用という本書を貫く主な視点が明確化されている.第Ⅰ部では,子育ての社会的条件の整備が児童虐待対策には急務であること,日本では家族像の見直しが不十分なままで子育て支援政策が進んできたこと,ひとり親世帯にみられるジェンダー不平等が家族規範を媒介として制度に織り込まれてきたこと,原発避難で親や子どもたちの関係性の分断と親密圏の再構築がみられることなどが,第Ⅱ部では,全身性障害者が日常生活での介助者との関係性で経験する困難さ,生活を支援する延長に看取りがあること,子世代男性介護者による高齢者虐待家族の分析から家族主義福祉政策の転換の必要性などが,最後の第Ⅲ部では,親密性の概念の日本的特徴として共同性とセットで考える点が福祉現場で重要であること,家族介護者だけでなくそれ以外の人びとも含むケアラーの概念とその支援がケアラー支援のプログラムとして必要であること,インフォーマルなケアの構造の男女別分析からケアの平等化の検討が求められること,生存保障システム全体の再設計が重要であることなどが,それぞれ提示されている.
- 以上,本書はケア現場の人びとに対しても重要な示唆を含んだ論考が多く,ぜひお奨めしたい.