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日本老年社会科学会  Japan Socio-Gerontological Society

書 評
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更新日 2023/4/20

教育老年学
堀 薫夫著 定価3,740+税
発行:放送大学教育振興会 2022年3月20日
本書は,教育老年学に関する放送大学大学院の教材として出版された書籍である.教育老年学は,学際的老年学のなかで重要な位置を占める領域であるが,日本では,この分野の研究・教育は他と比較して活発であるとはいえない.そのような状況のなかで,堀薫夫先生は,教育老年学と生涯学習論を専門としておられ,筆者の知る限り本分野の数少ない研究者であり教育者である.本書は15章から構成されているが,3つの章を除いて堀先生が執筆されており,まさに適任者による一貫した方針で編集された良書といえよう.
 筆者は,教育老年学は,高齢者への生涯学習,高齢者の児童・生徒等への教育活動を中心とした領域であろうと漠然と考えていたが,本書のまえがきに,「教育老年学の領域は,社会老年学と生涯学習論の対話の学問だともいわれている」とあり,想像していたより広い領域であることを認識した.
 著者によれば,教育老年学の研究・実践領域は,高齢者のための教育,一般市民に対するエイジングや高齢者問題に関する教育,高齢者に関わる専門職や准専門職の者への教育の3つを含むとされている.そして,著者の提唱した教育老年学の枠組みは,基礎理論として,エイジングと生涯発達のプロセスの研究,エイジングと学習・教育との関連の研究,高齢期における学習の成立条件・学習支援の研究であり,実践論として,高齢者の特性を生かした学習支援論,一般市民に対するエイジング教育,学校教育におけるエイジング教育,高齢者に関わる専門職教育とされる.
 本書はtextであり,上述の教育老年学の領域の大部分が網羅されているが,ここでは,筆者の素朴な感想と本書独自の視点として印象に残ったことを述べさせていただく.1つは,学校教育におけるエイジング教育と高齢者に関わる専門職教育に関して,本書ではそれぞれ,異世代交流の学習活動や高齢者学習支援の実践者論等のなかで述べられているが,筆者の感想としては,もう少し詳細かつまとまった形で,たとえば独立した章として取り上げていただいてもよかったように思われた.
 次に,印象的であったのは,5章の高齢者教育学と高齢者学習支援の方法で触れられている高齢者教育学の擁護論対不要論であった.著者は,「青少年向けの学校教育とは,質的にまったく異なる教育が現存するというこだわりを長く懐き続けてきた」と述べておられるが,この論の対立は,老年学の背景となる哲学や基本的な考え方とも関連する興味深い論点であると思われた.
 もう1つは7章のオールド・エイジ・スタイル論であった.高齢期の者に特有の芸術作品などのオールド・エイジ・スタイルは,著者が教育老年学は発達ではなくagingのpositiveな面に関わってこられたということともつながり興味深かった.
 教育老年学や高齢者の学習を専門にしている人,しようとしている人,あるいは,そうした領域の実践活動に携わる人は,本書を通読されてもよいであろうし,自分の専門に関連する,または関心のある領域を中心に読まれてもさまざまな有益な刺激を得るであろう.

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