→English

日本老年社会科学会 Japan Socio-Gerontological Society

老年社会科学 2024.4 Vol.46-1
論文名 家族介護者が認識する認知症カフェのサポート機能の構造
著者名 矢吹知之,広瀬美千代
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,46(1):7−19,2024
抄録 本研究は,認知症カフェに参加する家族介護者が認識するサポート機能の因子妥当性を明らかにし,その構成概念の検討を行うことを目的としている.認知症カフェの特性といえる5つの条件(頻度,運営者属性,対象者属性,継続年,内容)に当てはまる32都道府県424か所の認知症カフェに参加する家族介護者を対象に質問紙調査を行い,有効回答214件(29.5%)を分析した.探索的因子分析後,確証的因子分析を用いモデルの適合度を確認したうえで最適モデルを探索した.その後MIMICモデルにて属性項目との4 因子斜交モデルとの関連を検討した.結果,認知症カフェで認識するサポート機能は「認知症との出会いと準備」「共に学び合う場」「サードプレイス」「コミュニティ参加の機会」の4因子斜向モデルで説明できることが明らかになった.これは,従来の他地域活動とは異なる特徴を有していた.今後の課題は,明らかになった4因子斜交モデルの収束的妥当性を含めた構成概念妥当性の検討を行うことと,認知症カフェで認識するサポート機能の獲得に影響をもたらす家族の背景や,その特徴や属性別の詳細な分析を行うことである.
キーワード 認知症カフェ,家族介護者,サポート機能,確証的因子分析,構成概念

論文名 介護支援専門員のケアマネジメント実践におけるインフォーマル資源活用に対する態度とその関連要因
著者名 松岡洋子,渡邊大輔,中島民恵子,沼田裕樹
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,46(1):20−30,2024
抄録 本研究では,介護支援専門員(CM)のケアマネジメント実践におけるインフォーマル資源(IF)活用に対する態度を明らかにし,活用頻度・属性との関連を考察することを目的とした.首都圏4自治体の居宅介護支援事業所・地域包括支援センター所属のCM・主任CM を対象として郵送調査とオンライン調査を実施した結果,988 票の有効回答( 回答率42.7%)を得た.探索的因子分析の結果,「本人の暮らし・つきあい重視」「IF活用しやすい制度等希求」「本人のウェルビーイング重視」「介護保険優先」「積極的なIF巻き込み」の5因子が抽出された.各因子得点を従属変数とし,IF活用頻度,主任CM経験年数等の属性を独立変数として一元配置分散分析にて比較した結果,本人の日常生活,ウェルビーイングを重視する態度や積極的にIFを巻き込む態度はIF活用を高めており,この傾向が強いのは経験5年以上の主任CM,地域包括支援センターであることが明らかとなった.
キーワード 介護支援専門員,主任介護支援専門員,ケアマネジメント実践,インフォーマル資源,ウェルビーイング

論文名 高齢者との接触経験の質に対する認知とエイジズム――クロスラグモデルを用いた検討――
著者名 清水佑輔,鈴木 雅,畠由佳子,榊 敏朗
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,46(1):31-39,2024
抄録 高齢者に対するエイジズムの軽減を目指すため,多くの研究で世代間交流の効果が検討されてきた.効果的な世代間交流を行うため,高齢者との接触経験の質に着目し,より友好的かつ心地よい関係のもとで人々を交流させることが重要である.一方で,エイジズムが軽減することで,高齢者との接触経験の質に対する認知が肯定化するという向きの効果もあるのではないだろうか.本研究では,成人208人(20~62歳)を対象としたオンライン調査を実施し,約3か月の間を空けて,計2時点(T1とT2とする)で高齢者との接触経験の質に対する認知とエイジズムを測定した.クロスラグモデルの結果,T1のエイジズムが低いほど,T2の接触経験の質に対する認知が肯定的であった.一方で,T1の接触経験の質に対する認知とT2のエイジズムの関連はみられなかった.よって,他世代の人々のエイジズムを軽減することで,高齢者との接触経験の質に対する認知が肯定化することが示唆された.
キーワード エイジズム,接触経験,世代間交流,クロスラグモデル

論文名 フードデザート問題研究の概要
著者名 岩間信之,浅川達人,田中耕市,佐々木緑,駒木伸比古,池田真志,今井具子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,46(1):41-46,2024
抄録 本研究の目的は,フードデザート(FDs)問題研究を整理することにある.FDsとは,広義には「何らかの生活環境の悪化により,地域住民が健康的な食生活を営むことが困難となった地域」を意味する.現在,低栄養状態にある高齢者が増えている.また,低栄養状態に陥るリスクの高い食生活を送る高齢者の居住地は,特定のエリアに集中する傾向にある.そのため,高齢者の食生活と健康を生活環境(地理学的視点)から検討することには意義がある.FDsの発生要因は多様である.筆者らはわが国のFDsを,①社会的弱者(高齢者,低所得者など)が集住し,②買い物利便性の悪化と,家族・地域コミュニティの希薄化のいずれか,あるいは両方が生じた地域と定義した.都市部では家族・地域コミュニティの希薄化,縁辺部では買い物利便性の悪化が,FDsの発生要因となるケースが多い.
キーワード フードデザート問題,生活環境,社会的弱者,買い物利便性,家族・地域コミュニティ

論文名 高齢期の低栄養問題と食環境
著者名 今井具子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,46(1):47-52,2024
抄録 国民健康・栄養調査によると,加齢とともに低栄養の危険性が増大する.低栄養はフレイルに関連し,低栄養予防が要支援・要介護予防のカギとなる. 低栄養は欠食や,食事のアンバランスにより生じ,食品摂取の多様性スコア(DVS)等が簡便な指標となる.食品の多様性は,食物アクセスの影響を受け,食料品店舗までの距離,アクセシビリティ,店舗の業種により異なる.われわれは主な食品群別に生鮮食品や加工食品,調理済み食品などの情報を収集して食料品充足率を算出し,食料品アクセスマップを作成した.その結果,従来の食料品アクセスマップと異なる傾向がみられた. 要支援・要介護予防は,栄養とともに運動,社会参加等も重要であり,厚労省は「食べることを支援する地域のネットワークづくり」を推奨している.食環境整備には,多様な取り組みが求められる.今後は多分野の専門家が協働した低栄養予防のための地域づくりが必要であろう.
キーワード 低栄養,フレイル,食品摂取の多様性スコア(DVS),食物アクセス

論文名 社会とのつながりとフードデザート問題
著者名 浅川達人,岩間信之,今井具子,田中耕市,佐々木緑,駒木伸比古
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,46(1):53-59,2024
抄録 本研究の目的は,フードデザート問題を解決するために「社会とのつながり」が有効であるか否かを,国勢調査小地域統計と標本調査データを結合したデータセットを用いて分析し検討することにある.標本調査は,調査会社に登録されているモニターのなかから,地方中核都市であるA市に居住している15歳以上の男女を対象としてWEB上で行われた.回答者には居住地の郵便番号をたずね,それをもとに各回答者を中学校区に分類した.A市の社会空間構造を把握するために,2015年国勢調査データの小地域統計を中学校区に再分類して社会地区分析を行い,地域類型を得た.これら2種類のデータを結合したデータセットを用いて,マルチレベル分析を行った.分析の結果,地域特性に応じて商業施設が集積し,それが住民の食習慣に影響を及ぼしている可能性が示され,地域住民間の社会的つながりが強くない地域で生活することは,良好な食習慣につながらないことが示唆された.
キーワード フードデザート問題,国勢調査,社会地区分析,マルチレベル分析,社会的つながり

↑トップページへ戻る