→English

日本老年社会科学会 Japan Socio-Gerontological Society

老年社会科学 2024.10 Vol.46-3
論文名 情報処理スタイルは特別養護老人ホームの介護職員における“個人の資源”として機能するか
著者名 畦地良平
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,46(3):235-244,2024
抄録 本研究の目的は,介護職員の“個人の資源”としての情報処理スタイルの機能を検証することである.26施設から得られた662人のデータを解析した.構造方程式モデリングの結果,合理性処理は高いワーク・エンゲイジメントと低い情緒的消耗感に関連していた.一方,直観性処理は高いワーク・エンゲイジメントと高い脱人格化にわずかに関連していた.脱人格化の予防因子には高いワーク・エンゲイジメントと低い情緒的消耗感があることが示唆された.さらに,階層的重回帰分析により,直観性処理は行動抑制系と情緒的消耗感の関係を調整していることが明らかとなった.従って,合理性処理は重要な個人の資源として機能するが,直観性処理は必ずしも同じ役割を果たすとは限らない.経験に基づく直観性処理に頼るだけではなく,職場内訓練(OJT)や職員教育を通じ,個々の場面において合理的な意思決定ができる能力を養うことが重要であろう.
キーワード 個人の資源,情報処理スタイル,ワーク・エンゲイジメント,バーンアウト,仕事の要求度-資源モデル

論文名 高齢者における通いの場参加と物忘れ・地域組織参加数――介護予防・日常生活圏域ニーズ調査と参加者名簿を用いた縦断研究――
著者名 井手一茂,横山芽衣子,渡邉良太,松村貴与美,斉藤雅茂,近藤克則
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,46(3):245-255,2024
抄録 認知症予防は重要な課題である.本研究では,通いの場参加者は非参加者に比べ,認知症の前駆症状である物忘れリスクが低いか,予防に重要な地域組織参加数が多いかを明らかにする.神奈川県松田町の2016・2019年度の介護予防・日常生活圏域ニーズ調査と2017・2018年度の通いの場参加者名簿を結合し,65歳以上の高齢者575人(通いの場参加者:33人)を対象とした.目的変数は2019年度の物忘れ有無,地域組織参加数,説明変数は2017・2018年度の通いの場参加とし,2016年度における8個の交絡要因,物忘れ,地域組織参加数を調整変数とした修正ポアソン回帰分析,線形回帰分析を実施した.その結果,通いの場参加者は非参加者と比較し,物忘れリスクが低く(リスク比0.56),地域組織参加数が多かった(非標準化係数B0.57).通いの場参加により地域組織参加が促され,物忘れリスクが低下することが示唆された.
キーワード 高齢者にやさしいまち,認知機能,社会参加

論文名 絵本読み聞かせボランティアグループにおける活動負担感と関連要因――REPRINTS®研究より――
著者名 山下真里,川窪貴代,山城大地,高橋知也,松永博子,相良友哉,藤田幸司,藤平杏子,小川 将,鈴木宏幸,村山洋史,藤原佳典
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,46(3):256-266,2024
抄録 本研究は,高齢者による絵本読み聞かせボランティアグループ活動(以下,絵本G)における活動負担感の関連要因を混合研究法によって明らかにした.453人の絵本Gメンバーを対象に自記式質問紙調査を郵送法により実施した(回収率89.2%).量的分析では,活動負担感の有無と健康状態に関する要因,参加動機など活動に関する要因,就労状況などの基本属性との関連を分析した.その結果,活動負担感は26.1%にみられ,精神的健康の低さと,参加動機が周囲からの勧めであることが,活動負担感と有意に関連していた.次に,質的分析では,活動負担感の内容に関する自由記述を親近性によって分類した.その結果,活動負担感の内容は,個人的な要因と,グループに所属することによる要因があることが明らかになった.グループに所属して行うボランティアでは,メンバーの精神的な健康状態や参加動機といった心理面を把握し,集団的な圧力に注意する必要がある.
キーワード 社会参加,高齢ボランティア,動機づけ,活動負担感,混合研究法

論文名 すでに偏見や差別に関する問題は解決したか――高齢者および障害者に対する敵対的偏見や現代的偏見の軽減――
著者名 清水佑輔
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,46(3):267-277,2024
抄録 高齢者/障害者への敵対的偏見が根強く残る一方,近年,「すでに偏見や差別の問題は解決しているため,高齢者/障害者が現状に不平を訴えることは,正当化されるべきではない」という現代的偏見が問題視されている.研究1では,高齢者以外の健常な成人を対象としたオンライン調査を実施し,現代的偏見の尺度の信頼性や妥当性を検証した.また,高齢者/障害者への敵対的/現代的偏見が高い人ほど,高齢者/障害者支援政策に対する重視度が低いという関連がみられた.研究2では,高齢者以外の健常な成人を対象としたオンライン実験を実施し,敵対的/現代的偏見に関する文章を用いた教育的介入を行った.その結果,教育的介入を受けた実験群では,統制群よりも現代的偏見が低く,高齢者/障害者支援政策に対する重視度が高かった.高齢者/障害者に対する偏見を軽減することで,だれもが参加しやすい社会の形成が期待される.
キーワード 敵対的偏見,現代的偏見,高齢者支援政策,障害者支援政策,教育的介入

論文名 介護職員のワーク・エンゲイジメントがケアにもたらすもの
著者名 畦地良平
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,46(3):278-286,2024
抄録 介護職員のワーク・エンゲイジメントは,職員自身のメンタルヘルスや離職意図と関連することが明らかとなっている一方,介護におけるケアにどのように関連するかはまだ不明瞭である.本論では,調査データから職員のワーク・エンゲイジメントの高低により認知症ケアにおける業務遂行の困難さが異なるかを検討した.その結果,すべての業務において高ワーク・エンゲイジメントの介護職員は,低ワーク・エンゲイジメントの介護職員よりも遂行困難度が低いことが示された.とくにケア受領者とのコミュニケーションや対人関係の支援業務の困難さにおいて,ワーク・エンゲイジメントの高低による差が大きいという結果であった.高ワーク・エンゲイジメントが関係性支援のしやすさにつながることは拡張-形成理論により説明できる.今後,ケア受領者との関係を職員のワーク・エンゲイジメントの先行要因のひとつと考えることも課題のひとつかもしれない.
キーワード ワーク・エンゲイジメント,ケアの質,介護職員

論文名 人生に悔いを残さない老いのプロセスに関する研究展望
著者名 塩﨑麻里子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,46(3):287-294,2024
抄録 老いは,一時点で経験するものではなく,プロセスとして経験するものである.自分らしい人生の締めくくりを実現するためには,人生に悔いを残さない老いのプロセスが重要となる.心理学で培われてきた後悔に関する研究からは,解消が難しい状況にある高齢者の後悔こそが,心身の健康に大きな影を落とすことが明らかとなっている.これらの背景から,高齢期の後悔を未然に防ぐアプローチとすでに経験した後悔を解消するアプローチに関する研究を紹介し,今後の展開について議論した.高齢期には,人生の最期を左右する難しい選択を迫られることが多い.後悔を未然に防ぎ,どのように人生を選択していくのか.また,すでに経験している後悔をどのように受け入れて意味づけていくのか.今後の人生に悔いを残さない老いのプロセスに関する研究蓄積が期待されている.
キーワード 老いのプロセス,後悔,人生の価値志向性,二次コントロール

↑トップページへ戻る