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日本老年社会科学会 Japan Socio-Gerontological Society

老年社会科学 2025.1 Vol.46-4
論文名 高齢者用感謝尺度の作成と妥当性および信頼性の検討
著者名 小野真由子,長田久雄
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,46(4):327-337,2025
抄録 本研究の目的は,高齢者用感謝尺度を作成し妥当性と信頼性を検証することである.先行研究から3つの下位因子を想定し質問項目を作成後,専門家による内容的妥当性の評価および高齢者による内容評価,得点分布の確認によって21項目に取捨選択した.次に,都内の老人クラブ会員500人を対象にした質問紙調査によって確認的因子分析を行ったが,3因子モデルは支持されなかった.再度,質問項目の検討を行い10項目に厳選し因子分析を行った結果,1因子が妥当であると評価された.確認的因子分析による良好な適合度,および精神的健康,生活満足度,心理社会的発達に関する尺度との併存的妥当性を確認した.加えて,地域在住高齢者200人に対するオンライン調査によって,本尺度の交差妥当性も確認した.信頼性は2回の調査ともCronbachα=.90以上となり,一定の妥当性および信頼性の確保された尺度となった.
キーワード 高齢者,感謝,尺度開発,妥当性,信頼性

論文名 高齢介護者の不良な栄養・食事状況を抑制する社会的ネットワークと支援
著者名 森下久美
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,46(4):338-348,2025
抄録 本研究では,家族の介護を担う高齢介護者において社会的ネットワークと支援が不良な栄養・食事状況を抑制するかを検証した.対象者は同居家族の主介護者である高齢者496人であった.分析は,食品摂取多様性の不良,欠食,痩せを従属変数,社会的ネットワーク(社会参加と近所付き合い)と社会的支援(介護上の支援,手段的支援,情緒的支援)を独立変数,年齢,経済状況,持病,介護負担感,介護サービスの利用を調整変数とした二項ロジスティック回帰分析を性別に実施した.結果,高齢介護者の多くが不良な栄養・食事状況を抱えており,欠食は男女ともに2割が該当した.多変量解析の結果,男女ともに社会的ネットワークは不良な栄養・食事状況を抑制する可能性が示唆された.社会的支援については,男性では手段的支援が,女性では情緒的支援が不良な栄養・食事状況の抑制に有用であることが示された.
キーワード 老老介護,家族介護者,栄養,社会的ネットワーク,社会的支援

論文名 高齢者互助型ネットシステムおよびネット支援プログラムの開発と実践
著者名 桂 瑠以,橋本和幸,鵜沼秀行
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,46(4):349-356,2025
抄録 本研究では,高齢者互助型ネットシステムおよびネット支援プログラムを開発し,これらを用いた実証実験を行い,ネット利用や対人交流が促進するかを検討した.またネット利用を支援する役割を担う「ネット支援リーダー」と非リーダーの効果を比較した.実験では,対象者41人(平均年齢75.27歳, SD=4.81)に本ネットシステムおよびプログラムを1か月間利用してもらい,利用量,評価,利用の効用等を測定した.その結果,ネットシステムの「オンラインカフェ」を通じて,投稿やコメントなどの交流が活発に行われたこと,本ネットシステムおよびプログラムへの評価は総じて肯定的であること,ネット支援リーダーのほうが非リーダーより,オンラインカフェの効用を感じていること等が示された.これらのことから,本ネットシステムおよびプログラムの利用により,ネット上での対人交流が促進し,とりわけ支援することに効用がある可能性が示唆された.
キーワード 高齢者互助型ネットシステム,ネット支援プログラム,ネット支援リーダー,実証実験

論文名 地域在住高齢者における身体機能と認知機能の時代的推移
著者名 西田裕紀子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,46(4):358-363,2025
抄録 本論文は,地域在住高齢者における身体機能および認知機能の時代的推移を明らかにすることを目的とした.主な内容は以下のとおりである.(1)海外の先行研究を概観し,高齢者の身体機能,認知機能の時代的な推移は,国や地域,調査の時期等により異なることを論じた.(2)わが国の統合研究である「長寿コホートの総合的研究(Integrated Longitudinal Studies on Aging in Japan;ILSA-J)」から,日本人高齢者の身体機能,認知機能が向上している可能性について論じた.(3)今後の課題として,心身機能の個人差への着目,および縦断的検討の重要性について論じた.
キーワード 地域在住高齢者,身体機能,認知機能,時代的推移

論文名 高齢者の社会とのつながりにおける時代的変化;JAHEAD/NSJE1987-2021
著者名 小林江里香
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,46(4):364-373,2025
抄録 全国高齢者パネル調査(JAHEAD/NSJE)における1987年,1999年,2012年,2021年の60代と70代以上について,親しい友人,近隣の人,グループに関するネットワーク規模と交流・参加頻度の平均値,およびつながりが乏しい割合の推移を示した.一般化線形モデルによる分析の結果,親友数増加や親友がいない割合の減少など友人関係の向上は女性のみでみられ,男女差が拡大していた.近隣数やグループ参加からみた地域とのつながりの低下は男女でみられたが,70代以上では男性にこの傾向が強かった.60代女性では,近隣づきあいやグループ参加がない割合が2021年に急増して男性と差がなくなっており,新型コロナウイルス感染症流行の影響か,就労参加が進んだ新しいコホートの特徴なのかは今後の調査が待たれる.また,60代の親友・近隣数は,平均値には男女差がないが,「いない」割合は男性のほうが高く,とくに男性の社会的つながりの実態把握においては注意が必要である.
キーワード 友人関係,近隣関係,社会参加,COVID-19,ジェンダー

論文名 高齢者のウェルビーイングの時代的変化;JAHEAD/NSJEからのエビデンス
著者名 中川 威
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,46(4):374-380,2025
抄録 老年学者は,人がどのようにうまく歳を重ねていくかという問いに関心をもち,高いウェルビーイングを経験していることをサクセスフル・エイジングと捉えてきた.本稿では,高齢者のウェルビーイングの時代的変化に関する既存の知見を概観した.先行研究では,最近の高齢者では,ひと昔前の高齢者に比べて,ウェルビーイングが向上していることが示唆されている.ただし,先行研究の課題として,繰り返し横断研究のデータが用いられていること,ドイツやアメリカといった西欧諸国で主に実施されていることが挙げられる.これらの課題を解決するため,日本の高齢者を対象とする縦断研究であるJAHEAD/NSJEのデータを用いた.前期高齢期における知見とは逆に,後期高齢期ではウェルビーイングが時代につれて悪化していることが示唆された.今後,高齢者のウェルビーイングの時代的変化の原因を特定することで,政策への具体的な示唆を得られるだろう.
キーワード 出生コホート,世代差,歴史的影響,縦断,時代的推移

論文名 高齢者の貧困の時代的推移
著者名 四方理人
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,46(4):381-388,2025
抄録 本稿では,1985年から2018年までの高齢者の相対的貧困率の変化,および公的年金の財政検証と世帯の将来予測からみた高齢者の貧困率の今後の動向について考察を行った.高齢男性と比較して,高齢女性の貧困率が低下しなかった理由は,3世代同居の減少による単独世帯の増加により死別高齢女性の貧困率が上昇したことによる.そして,公的年金の財政検証における過去30年と同様の経済成長率を前提としたケースでは,今後,実質的に基礎年金額が低下することが予測されている.また,男性の平均手取り賃金に対するモデル年金額の水準である所得代替率が現在より10%以上低下することからも,高齢者の相対的な年金収入は低下し,相対的貧困率が上昇することが考えられる.加えて,世帯の将来推計においては,高齢女性において,死別より貧困率が高い未婚と離別の割合が上昇する.同時に,高齢者における単独世帯の割合が男女ともに上昇することが予測されており,家族に頼ることができない高齢者が増加するため,貧困問題がより顕在化するだろう.
キーワード 相対的貧困率,公的年金,世帯構造,生活保護

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