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日本老年社会科学会 Japan Socio-Gerontological Society

老年社会科学 2025.4 Vol.47-1
論文名 地域包括支援センターの整備状況に関する研究――地理情報システム(GIS)を基にした地域資源の把握――
著者名 廣瀬圭子,筒井澄栄
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,47(1):7-19,2025
抄録 【目的】本研究は,高齢者のアクセシビリティの視点から地域包括ケアシステムの中核機関である地域包括支援センター(以下,包括)の整備状況について地理情報システム(GIS)を用いて把握し,地域の配置状況の可視化と,利便性について検討することを目的とした.
【方法】GISを用いて,自治体ごとに包括の配置状況と高齢者の自宅とのアクセス距離を調査した.また,平均アクセス距離の遠い地域の改善シミュレーション分析を行った.
【結果】全国平均の高齢者の地域包括支援センターまでの平均アクセス距離は2,391 mで,都道府県や市町村によって差異があった.介護老人保健施設や介護老人福祉施設に包括の機能があると仮定した場合,全国の平均アクセス距離は,3.0 km未満となることが確認された.
【結論】アクセス距離からみた包括の整備状況は,人口過疎地域はいまだ課題が残っている.サービスや情報へのアクセシビリティなど利便性向上とICT等の技術のさらなる活用が望まれる.
キーワード 地域包括支援センター,地理情報システム(GIS),距離,地域包括ケアシステム,シミュレーション分析

論文名 後期高齢者の生活機能と利用する健康・医療情報源との関係
著者名 荻原牧子,川原靖弘
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,47(1):20-28,2025
抄録 【目的】後期高齢者の生活機能6分野(運動機能,栄養,口腔機能,閉じこもり,認知機能,うつ)と健康・医療情報源の利用程度との関連を明らかにする.
【方法】地域在住の要介護高齢者を除く後期高齢者3,299人に郵送調査を実施した.調査には基本チェックリスト,自作の健康・医療情報源調査票を用いた.分析にはロジスティック回帰分析を用い,目的変数は機能低下の有無,説明変数は属性,健康・医療情報源を強制投入した.
【結果】運動機能,口腔機能,閉じこもり,認知機能,うつの分野で,それぞれ友人とインターネット,家族と健康教室,インターネット,雑誌とインターネット,家族とインターネットが機能維持と関連していた.一方,運動機能,閉じこもり,認知機能の分野で,それぞれ医療機関,役所の広報・チラシ,家族が生活機能低下と関連していた.
【考察】多くの機能分野においてインターネット利用が機能維持と関連し,後期高齢者においてもその影響は大きいと考えられた..
キーワード 後期高齢者,基本チェックリスト,生活機能,健康・医療情報源

論文名 コロナ禍になにが研究されたのか?――COVID-19が高齢者に与えた影響を検討した縦断研究に関する計量書誌学的文献レビュー――
著者名 竹内真純,張 佳潔,小林江里香
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,47(1):29-42,2025
抄録  コロナ禍は人々にさまざまな影響を与え多数の研究が行われた.本研究は,コロナ禍に高齢者が受けた影響を検討した縦断研究を対象に,検討された従属変数の種類および件数,研究デザイン,出版年,日本の研究の特色を整理・分析した計量書誌学的文献レビューである.2023年11月末までに公表された日本語と英語の論文を対象に「高齢者」「COVID-19」の検索語にて検索を行い,291件の論文が分析対象となった.検討された従属変数は,抑うつや不安等の「精神的健康」,孤独感や対人交流頻度等の「社会関係」が多かった.日本の研究は身体機能のような「身体的健康」と運動や食事等の「健康関連生活習慣」が多い特徴があった.ロックダウンや社会的距離の拡大に伴う高齢者の心身の健康と,社会関係の希薄化,生活スタイルの悪化が注目を集めたといえる.今後,ICTの利用や経済的問題,日本における心理社会的影響等,研究の少なかった側面の検討が望まれる.
キーワード COVID-19,コロナ,パンデミックの影響,計量書誌学的分析,システマティックレビュー

論文名 高齢者介護を支える多様な家族への介護定量化(Care-quantification)の効果と社会実装への示唆
著者名 涌井智子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,47(1):44-50,2025
抄録  家族介護者は高齢者を支えるうえで重要な役割を果たしているが,身体的・精神的・心理的負担が大きいことが指摘されている.本研究では,介護定量化を活用した新たな家族支援の可能性を探り,家族介護者がデジタルツールを用いて自身の日々の介護内容や感情状態,健康指標を記録できる仕組みである介護定量化支援プログラム(CARE-VIP)の開発,およびこれらの質的・量的効果を紹介する.加えて,本プログラムがもたらす緩いつながりの効果に触れ,緩いつながりと従来の地域支援の統合により,柔軟で持続可能な家族支援モデルの構築が可能であり,介護負担の軽減や適切なタイミングでの支援提供につながる点について考察する.
キーワード 家族介護者,介護定量化,緩いつながり,支援

論文名 活動量計による介護者の健康モニタリングの可能性――研究報告から――
著者名 龍野洋慶
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,47(1):51-56,2025
抄録  本稿では,在宅で介護保険サービスを利用する高齢者とその家族介護者を対象に心身の健康に関する研究より,とくに活動量計によって測定した家族介護者の睡眠データを分析した拙著論文から報告する.本研究を開始した2016年までは在宅介護をする家族介護者の睡眠を質問紙で聞き取る先行研究が多く,ICTを用いて客観的に睡眠状況を測定した研究は僅少であった.そこで,本研究は2016~2019年にかけて睡眠状況を実際に家族介護者に活動量計を装着して測定し,睡眠状況と家族介護者自身および要介護者の心理的・社会的側面との横断的な関連を確認した.次に,長期間活動量計を装着することで得られた多時点の睡眠データから,前日の睡眠状況と翌日の介護負担感やネガティブ感情といった心のありようへの縦断的な関連を検証した.最後に,活動量計による研究から今後の健康モニタリングの可能性について述べる.
キーワード 家族,活動量計,睡眠,介護と仕事,健康モニタリング

論文名 現役世代介護者に必要な支援とオンライン支援プログラム開発の取り組み
著者名 森山葉子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,47(1):57-63,2025
抄録  現役世代介護者は,介護のほかに仕事や育児などたくさんの役割を担う者も多く,時間的にも心理的にも余裕をもてないことがうかがわれ,この世代の介護者の幸福感やQOLなどの低さも指摘されており,心身の健康が懸念されている.一方,昨今のICTの発展により,インターネットを活用した介護者支援プログラムが国内外で開発されており,こうしたオンライン支援の特徴は,忙しい現役世代介護者の状況や必要な支援に合うと考えられる.本稿では,現役世代介護者の現状を整理し,必要な支援を検討する.また,ICTを活用したオンライン支援の特徴を述べ,筆者らが取り組んでいるポジティブ心理学をもとにした現役世代介護者向けオンライン支援プログラムの開発について紹介する.
キーワード 家族介護者,現役世代,ダブルケア,オンライン支援,ポジティブ心理学

論文名 地域における専門および非専門職による介護家族支援の実態と課題――対面およびICTによる支援の両用を目指して――
著者名 広瀬美千代
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,47(1):64-70,2025
抄録  要介護高齢者が急増する一方で,家族の形態も多様化している.近居・遠居における介護や介護と仕事,あるいは介護と育児の両立など,家族介護者の様相が多様になり,従来からの介護者支援は新たな局面を迎えている.一方,さまざまなICTによるツールが実際の介護現場では使用されている.そのような背景のなか,本稿ではまず,介護家族への効果的な顔のみえる支援の例として,訪問系サービス利用がもたらす効果,認知症カフェの実際,認知症の人と家族への一体的支援を取り上げる.次に近年の地域福祉活動の現状と課題を踏まえ,とくに非専門職による介護家族への支援例に焦点を当て,専門職と非専門職がいかに地域での要援護者発見に貢献しているのかといったことに関して,その役割の重要性について述べる.最後に,顔のみえる支援とICTによる介護家族支援のそれぞれの特徴と今後のその両用の方策について課題を提示したい.
キーワード 介護家族,介護負担感,地域福祉活動,非専門職,ICT

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