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日本老年社会科学会 Japan Socio-Gerontological Society

老年社会科学 2026.1 Vol.47-4
論文名 長寿を喜ぶ・喜ばれる多世代共生社会の実現を目指して;挑戦と展望
著者名 鈴木宏幸
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,47(4)
抄録  わが国は世界に先駆けて超少子・超高齢社会へと移行し,団塊の世代が75 歳を迎える現在,地域社会のつながりの希薄化や働き盛り人口の減少に伴う支え手不足が大きな課題となっている.こうした状況においては,高齢者自身が健康を維持・増進しながら役割をもち,地域社会の担い手として活躍する「自助・互助」の仕組みを再構築することが不可欠である.しかし令和5 年度高齢社会対策総合調査によれば,地域活動に参加していない高齢者は約4 割に上り,その層の約4 割が生きがいを感じていないことも報告されている.長寿が当たり前となった現代においても,「長寿をすなおに喜べない人々」が一定数存在するという現実が示唆されている.
 一方で,少子化と寿命の延伸はわれわれに新たな社会像を求めている.人生100 年時代には,従来の「教育・労働・余生」という3 段階の人生モデルに代わり,各世代が相互に学び合い支え合う新たな関係性の構築が求められる.高齢者が地域で生きがいをもち積極的に関わることは,本人の幸福感の向上のみならず,他の年代にとっても安心や共感をもたらし,互いに歓迎されるかたちで社会参加が循環する基盤となる.
 本特集のもととなった老年社会科学会第67 回大会(2025 年)のシンポジウム「長寿を喜ぶ・喜ばれる多世代共生社会の実現を目指して;挑戦と展望」では,多世代共生をテーマに研究・実践を重ねてきた3 人のシンポジストを招いた.まず倉岡正高先生には,多世代共生の意義と歴史的経緯,国内外の実践事例について概観いただいた.次いで宇良千秋先生には,農園を活用した実践的研究から,多世代の交流が生み出す新たなコミュニティ形成の可能性を示していただいた.さらに,杉啓以子先生には多世代型施設における取り組み事例を通じ,共生を日常的に体現する場づくりの実際を共有いただいた.
 各講演を踏まえ,本特集では「長寿を喜ぶ・喜ばれる社会」を実現するための具体的な知見とヒントを探り,多世代が共に活躍し支え合う未来社会の姿について検討を深める.

論文名 多世代共生社会のこれまでとこれから―― 多世代共生の意義と実践事例 ――
著者名 倉岡正高
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,47(4):413—420,2026
抄録  2024(令和6)年9 月13 日に閣議決定された高齢社会対策大綱の目的において,「『高齢社会対策』とは,……中略……年齢によって分け隔てられることなく,若年世代から高齢世代までの全ての人が,それぞれの状況に応じて,『支える側』にも『支えられる側』にもなれる社会を目指していくことが必要である」と示された.
 多世代共生社会のあり方には,世代間の交流に根ざした互助の関係構築が欠かせない.1994 年にアメリカイリノイ州で創設された「Hope Meadows」では,課題を抱えた家族からの養子を迎えた若い家族と高齢者が共に生活し,支え合うことを特徴としている.高齢者と子どもたちがそれぞれ生活の支えとなり「お返し」をする「Circle of Care」という概念が生まれた.わが国の介護予防施策に目を向けると,世代を超えた交流の拠点としての「居場所」の確保が十分に進んでいないことを示唆しているが,多世代共生社会の実現の一歩には,多様な世代が気軽にかつ定期的に交流できる常設型の居場所であることが求められることから,本稿では,多世代共生や交流に関する概念と,国内外の多世代常設型の居場所の好事例がどのような特徴をもち,運営をされているかを紹介した.
キーワード 多世代,多世代共生,世代間交流,通いの場

論文名 農園を活用した多世代共生社会構築の可能性
著者名 宇良千秋
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,47(4):421—426,2026
抄録  筆者は,オランダ発祥のケア・ファームをわが国の認知症ケアに適用し,その効果と実行可能性を検証してきた.新潟県の精神科病院では稲作活動を通じて,都市部では小学校跡地の農園活動を通じて,精神的健康の向上などが確認された.さらに,東京都の高島平団地では多世代交流を目的とした農園を設置し,認知症をもつ人やその家族,地域住民との協働による活動を継続している.農作業は認知症高齢者のみならず,引きこもりの若者にとっても,社会参加のきっかけとなる居場所となりうる.農園は,年齢や国籍,障害の有無にかかわらず多様な人々を包摂する場としての可能性を秘めている.
キーワード ケア・ファーム,認知症高齢者,チームオレンジ,多世代共生社会

論文名 技能習得から始まる高齢者の社会参加・社会貢献―― 絵本読み聞かせボランティア「りぷりんと」の事例から ――
著者名 髙橋知也
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,47(4):427—433,2026
抄録  近年,高齢者は「若返っている」と形容されるように,以前に比べて身体・認知機能が高く,余暇時間の使い方も多様化している.こうした変化が生じるなか,高齢者の社会参加・社会貢献の促進には報酬の獲得や承認欲求あるいは知的好奇心の充足といったインセンティブがいっそう重要となっている.なかでも技能習得は当事者の自己効力感を高め,獲得した技能を地域で活かそうとする社会参加・社会貢献意欲を強める点で有力なインセンティブであり,絵本読み聞かせプログラム「りぷりんと」は技能習得をインセンティブとする社会参加活動の典型であるといえよう.本稿では,絵本読み聞かせ講座を通じて読み聞かせ技能を習得した高齢者が,読み聞かせボランティアにとどまらず,ポピュレーション・アプローチとしてのSOSの出し方教育や居場所型産後ケアなどへと越境的に活動の幅を広げている事例を取り上げる.
キーワード 社会参加,技能習得,世代間交流,ボランティア

論文名 イキイキ人生をありがとう―― 園児への絵本と紙芝居の読み聞かせを通して人生のやりがいを見つけた高齢者の物語 ――
著者名 杉啓以子
雑誌名
巻/号/頁/年
老年社会科学,47(4):434—435,2026
抄録  2025(令和7)年,わが国の65 歳以上高齢者は3619 万人に達し,総人口に占める割合は過去最高の29.4%となった(総務省統計・9月現在).また,100 歳以上の高齢者は9 万9763 人と,55 年連続で過去最多を更新している.
 しかし一方で,高齢社会はこれまで経験してこなかったさまざまな課題を生み出している.移動・買い物・外出・介護支援などの社会資源の整備・充実はもちろん,人とのかかわりの希薄化による孤独や孤立,精神的な不安は,引きこもり,うつ,ごみ屋敷,自殺など多くの問題の背景となる可能性がある.
 高齢者が「長寿を喜び,また喜ばれる存在」として,子どもたちとの交流を通して「だれかの役に立ちたい」と願ったひとりの高齢者の挑戦を取り上げ,イキイキとした人生を送ることができることを示したい.

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